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国際  投稿日:2015/12/25

[久峨喜美子]【移民受け入れ議論が具体化へ】~特集「2016年を占う!」移民政策~

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 久峨喜美子(英国オックスフォード大学 政治国際関係学科博士課程在籍)

執筆記事プロフィール

現地調査のため帰国して二ヶ月が経つ。久しぶりの帰京だからか、自分の研究テーマと関わる事だからか、一年前よりもやたらと巷で外国人が目立つように思える。メイド喫茶、アニメやオタク文化が呼び寄せる外国人観光客だけではなく、コンビニエンスストアや街角の建設地など、外国人労働者が以前より格段に顕著になっているのは確かであろう。

こうした変化は、政治家の言説の中にも見て取れる。2015年11月河野国家公安委員会委員長や石破地方創世担当大臣は、各々の講演で経済活性化における移民の重要性を強調した。搾取されている外国人労働者としてメディアにもよく登場する技能実習生制度を含めた外国人問題についても、ようやく政府も重い腰を上げて動き出したという印象がうかがえる。

これは確かに、「移民は存在しない」と頑に言い続けてきた日本政府にとっては大きな進歩だ。1990年新入管体制の設置以前、街角の工場で働いている外国人労働者が警官に尋問され不法滞在者だということが分かっても、実際には雇用主が警官と交渉して見て見ぬ振りをするということは、川崎などの工場地帯では多々あった。こうして外国人がいないという神話を貫くことで、政府は外国人労働者の問題から目を反らし、あたかも日本の経済成長は日本人のみによって成し遂げられたと長年主張してきたことを考えると、「移民」という言葉が公に使われるようになったことさえ非常に大きな変化に思える。

とは言うものの、もちろん外国人の権利について劇的な進歩があったわけではない。2050年には総人口9700万人まで減少するとも予想されており、特に3K労働と言われる分野での労働人口が不足していくことが明白であるにも関わらず、日本政府は未だに短期の就労ビザのみを与える技能実習生制度を廃止しようとはしない。

一方市民レベルでは外国人労働者の権利を主張すべく、弁護士ネットワークと労働組合や非政府団体が連携して裁判で勝訴を勝ち取っている近年の動向はもちろん評価に値する。しかしこうした市民レベルのサポートも、2015年度には4930人にも昇るとされる失踪した技能実習生や搾取されている不法就労者にはほとんど届いていない。

単純労働者だとしても、外国で働き、日々の生活の中で人と出会い、結婚し、子供を持つ事も当然あり得るだろう。それは生きる上で基本的な権利であるし、家族が同じ国で暮らしをともにすることを望むのも、当然だと思う。そうした外国人労働者に関する基本的人権に関する根本的な議論がないまま、労働力不足を解消するためにだけ外国人を受け入れるというやり方は、いったいいつまで続けられるだろうか。

石破、河野両大臣が移民政策について積極的な発言をする一方で、同11月中旬、日本政府は表現の自由に関する国連特別報告者の訪問をドタキャンし、日程を来秋に延期した。表現の自由を巡る問題は、人種差別的な発言を含むヘイト・スピーチにも関わる重要な問題であるが、政府がこうした消極的な姿勢を貫いていては、外国人が移民として制度上受け入れられても、外国人との共生という理想郷を創り上げることからはほど遠いであろう。

2016年は今年よりも移民受け入れに関する議論がより具体的に進んでいく年となるように期待したいが、彼らもまた我々日本人と同様に家庭を持ち、幸せを追い求める当然の権利を有する人間であることを忘れないでもらいたい。情報や議論の場を提供するメディアや有識者も、何の根拠もない外国人に関する歴史的な言説を披露し、やたらと肌の色を強調するような言い回しをすることで人種差別的な感情を煽ることは、意識的に避けなければならない。2016年はその第一歩であってほしいと切に願う。

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