ここまできたかスポーツ界の堕落と腐敗 東京五輪の開催時期変更を提案せよ
嶌信彦(ジャーナリスト)
「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」
国際スポーツ大会は、かつて健全なる肉体と精神を競う場とされていた。それが今や国威発揚といかに五輪組織委員会や主催国、有名選手らがビジネスの場として利用し、名前を売るかという悪臭粉々たる場にどんどん身を落としているようにみえる。
きっかけは、ロシアが80年のモスクワ五輪を西側諸国にボイコットされた意趣返しに84年のロサンゼルス五輪を社会主義国が不参加を決めたあたりだろう。もうその前から国際スポーツ大会は個人の肉体とパフォーマンスを競う場というよりメダルの数を争う国の面子をかけた祭典になってきた感がある。このため、主催国は開会式や閉会式に趣向をこらし、莫大な費用をかけるようになってきた。もはや開催国を名乗れるのは資金とパフォーマンスの人材、ITを駆使できるほんの一部の国になってきた。
しかもオリンピックの合間には国際的な陸上大会、水泳大会、アジア大会など個別の地域大会、個別の種目別スポーツ大会が相次いで行なわれている。これを成り立たせているのは、国際スポーツ中継の放映権料である。テレビを通じて国際的な一流プレイヤーの国際試合を見られるとあって、放映権料は1980年代に入りウナギ上りに上昇、特に目立ったのはヨーロッパサッカーリーグの試合で、最盛期にはセリエA(4億8600万ユーロ)、FAプレミアリーグ(8億5300万ユーロ)、UEFAチャンピオンズリーグ(8540万ユーロ)などと高額化し、FAプレミアリーグの放映権料は91年から10年間で40倍となった。
こうなると放映権をどこに融通するかを巡り激しい裏工作が始まることになる。事実、今回明らかになったことは、本家本元の国際サッカー連盟(FIFA)で会長選挙の票と引き換えにW杯の放映権がW杯理事に与えられたのではないか、と報じられた。スイスのジャーナリストによって元FIFA副会長ジャック・ワーナー氏が10年、14年W杯の放映権をセットで38万9000ポンド(約7200万円)で買ったのではないかと特報したのだ。契約額は相場の5%で、ワーナー氏はそれをカリブ海サッカー連合に放映権を売却し、1100万ポンド(約20億円)の利益を得ていたという。
世界のスポーツ大会のメインイベントは、春と秋に行なわれることが多い。この時期にサッカーやアメリカメジャーリーグの決勝戦もこの時期に行なわれるので、他のスポーツ大会開催はこの時期を外されることが多い。東京五輪は2020年の7月下旬から始まるが、日本では最も過酷な季節だし台風シーズンでもある。しかし、主催国日本の力では、開催時期も決められないのだ。“アスリート・No1”と言いながら、最も五輪にふさわしい季節は、アメリカとヨーロッパのメジャーリーグ、サッカーに明け渡さなければならないからである。
日本はこうしたスポーツの政治力学にオメオメと黙って引き下がってよいのか。オリンピックは世界最大、最高のスポーツの祭典であるなら、主催国に最もふさわしい時期を決めさせるのが筋ではないか。カネと汚職などにまみれてきたスポーツ界を立て直すため、日本は真面目にスポーツ大会の意義を申し立て、日本の最も素晴らしいスポーツシーズンに五輪を開くことをもう一度提案し直して日本の四季、クールジャパンを楽しんでもらえるようスポーツ関係者は立ち上がるべきではないか。
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嶌信彦ジャーナリスト
嶌信彦ジャーナリスト
慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、通産省、外務省、日銀、財界、経団連倶楽部、ワシントン特派員などを経て、1987年からフリーとなり、TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務める。
現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」にレギュラー出演。
2015年9月30日に新著ノンフィクション「日本兵捕虜はウズベキスタンにオペラハウスを建てた」(角川書店)を発売。本書は3刷後、改訂版として2019年9月に伝説となった日本兵捕虜ーソ連四大劇場を建てた男たち」(角川新書)として発売。日本人捕虜たちが中央アジア・ウズベキスタンに旧ソ連の4大オペラハウスの一つとなる「ナボイ劇場」を完成させ、よく知られている悲惨なシベリア抑留とは異なる波乱万丈の建設秘話を描いている。その他著書に「日本人の覚悟~成熟経済を超える」(実業之日本社)、「ニュースキャスターたちの24時間」(講談社α文庫)等多数。