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.国際  投稿日:2022/10/22

核の恐ろしさを軽々に言うな 核保有国は広島・長崎を視察せよ


嶌信彦(ジャーナリスト)

「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」

【まとめ】

・ロシアによる半年間の侵攻でウクライナからの避難民は1700万人に上り、全人口の3人に1人超に上る。

・今回の戦争は、安保常任理事国のロシアが核の脅しを誇示しながら領土拡張を狙った侵害という点で異常。

・日本は、核戦争の悲惨さを写真などで世界に知らせ、戦争責任者や軍人たちを広島・長崎に呼んで実態を説明する役割を担ったらどうか。

 

ロシアの戦争犯罪は1万9000件に上る――今年のノーベル平和賞にロシアの戦争犯罪の記録を収集したウクライナの人権団体などに授与されることとなった。プーチン大統領が指揮を執るロシア軍のウクライナ侵攻に伴う残忍で暴虐的な行為は、世界の市民を震撼させた。その実態をあばきロシア軍による民間人などへの行為を記録していたのだ。

ロシア軍の行為が特にひどかったのは、ウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外のブチャだった。人口は約4万人だが、ロシア軍が2022年2月末から3月にかけて侵攻してきた時、子供を含め400人以上が殺された。ロシア軍の戦争犯罪として捜査されている。

ブチャは約1ヵ月にわたりロシア軍に占拠され、その間にほとんど無抵抗の住民を銃で撃ったり、暴行をふるうことで殺した。死体もそのまま放置されることが多かったようだ。

また、ウクライナ北部チェルニーヒウ州のヤヒドネ村では、ほぼ全ての住民が3月にロシア軍によって村の学校の地下室に監禁された。28日間にわたり、350人以上の住民が閉じ込められたのだ。木の扉を開き階段を降りると薄暗い地下室に絵や布団が散乱している。壁には手書きで名前と日付が記されており、10人分の名前があった。地下室で亡くなった人達の記録だったという。

「村にやってきたロシア兵は一軒ずつ民家をまわり、地下室に隠れていた住民も見つけて『学校の地下室に行け』とライフル銃を突きつけた。パソコンやスマホ、携帯電話、腕時計などをその場で取られ破壊された。ほぼ4日以内にほとんどの住民が学校の地下室に集められ、大小7つの部屋に350人以上、最大80平方メートルの部屋には175人が押し込められた。廊下も人でいっぱいになった。寝るスペースはほとんどなく、70人以上いた子供たちは小さなベッドに押し込まれ、大半の大人たちは座ったまま寝かされた。電気は無く、どの部屋も明かりはろうそく1本だけだった。トイレが無く、部屋の隅にバケツを置き、用を足したという。誰も生きて帰れないと思っていた。

ドアに記録を残したのは、誰かにここでの出来事を伝えるためだった・・・欧州安保協力機構が7月に発表した報告書は、ヤヒドネの学校で起きた監禁を“非戦闘員を人間の盾に使用した例だと指摘。ジュネーブ条約に違反する行為だと断じた。」(8月19日付朝日新聞)

▲写真 ロシア軍に破壊されたヤヒドネ村の瓦礫を片付けた「Repair Together イニシアチブ」のボランティア達が、「レイブクリーンアップイベント」で踊る(2022年7月23日、ウクライナチェルニーヒウ州ヤヒドネ村) 出典:Photo by Alexey Furman/Getty Images

ロシアによる半年間の侵攻でウクライナからの避難民は1700万人に上り、全人口の3人に1人超となった。両軍の兵士や民間人の死者は3万人規模、負傷者を合わせると10万人達した模様だという。アメリカはロシア兵の死者が約1万5000人、負傷者を合わせると7~8万人とみている(8月下旬時点)。

また、国際通貨基金によると2022年の実質国内総生産(GDP)がウクライナで前年比35%減、ロシアは同6%減と予測している。ウクライナでは1104億ドル(15兆1000億円)のインフラが被害を受けており、これはウクライナの21年のGDP半分に匹敵、復興には100兆円かかると見積もっている。このほかウクライナ侵攻半年を数字でみると、死傷者数は民間人約1万400人、ウクライナ兵1万5000人、対ロシア制裁9117件、各国地域のウクライナ支援約11.5兆円――などとなっている。

今回の戦争は、安保常任理事国のロシアが核の脅しを誇示しながら領土拡張を狙った侵害という点で異常であり、ロシアに従わない限りウクライナの主権は行使させないという。2年後の世界地図からウクライナが消えているかもしれないと言い切るロシアの傲慢さにはあきれかえる。国連憲章で定められている安保常任理事国の役割と責任を放棄していると思わざるを得ない。もう一度国連憲章の意味と安保常任理事国の役割をロシアに知らしめるべきだろう。

日本は原爆被害を受けた唯一の国だ。核の恐ろしさを日本はもっと積極的に訴えるべきだ。今回の戦争でロシアなどは「」の使用について軽々に語っており、本気で戦術核などを使用するのではないかとさえ思わされる。

日本はロシアとウクライナの戦争を論評するだけでなく、この機会に核戦争の悲惨さを写真などで世界に知らせ、戦争責任者や軍人たちを広島・長崎に呼んで実態を説明する役割も担ってやったらどうだろうか。支援金を出すだけが戦争への防止ではあるまい。

トップ写真:8月7日にドネツク州バフムートで戦死した43 歳のアントン・サヴィツキーの葬儀で悲嘆にくれる近親者(2022年8月13日、ウクライナ・ブチャ) 出典:Photo by Alexey Furman/Getty Images




この記事を書いた人
嶌信彦ジャーナリスト

嶌信彦ジャーナリスト

慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、通産省、外務省、日銀、財界、経団連倶楽部、ワシントン特派員などを経て、1987年からフリーとなり、TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務める。

現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」にレギュラー出演。

2015年9月30日に新著ノンフィクション「日本兵捕虜はウズベキスタンにオペラハウスを建てた」(角川書店)を発売。本書は3刷後、改訂版として2019年9月に伝説となった日本兵捕虜ーソ連四大劇場を建てた男たち」(角川新書)として発売。日本人捕虜たちが中央アジア・ウズベキスタンに旧ソ連の4大オペラハウスの一つとなる「ナボイ劇場」を完成させ、よく知られている悲惨なシベリア抑留とは異なる波乱万丈の建設秘話を描いている。その他著書に「日本人の覚悟~成熟経済を超える」(実業之日本社)、「ニュースキャスターたちの24時間」(講談社α文庫)等多数。

嶌信彦

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