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.国際  投稿日:2022/9/22

日本はインド、トルコにも目配りを!


嶌信彦(ジャーナリスト)

「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」

【まとめ】

・世界が今、アメリカとロシア、中国に三極化する中でインドとトルコは独自の外交を行い、存在感を高めている。

・両国は歴史的にみても日本との関係が深く、大の親日国。

・手を組んでアジアに新しい波を起こせば、日本はアジア太平洋だけでなくインド、中東にも新たな存在感を持つことになろう

 

国際情勢が微妙に変化している時、独自の動きを見せているのがインドトルコだ。

世界が今、アメリカとロシア、中国に三極化する中でインドとトルコは独自の外交を行い、存在感を高めている。両国は長い歴史を持ち、文明国として世界の中心となった経験や誇りをもった経緯もあるだけに、両国が立ち上がってくると世界は活性化してこよう。

第二次大戦終結後、国際社会はアメリカを中心とする自由主義・資本主義陣営(北大西洋条約機構・NATOなど)とソ連(ワルシャワ条約機構など)、中国の社会主義陣営に別れ、長く冷戦状態が続いた。

しかし、80年代末から90年代にかけ、ソ連にゴルバチョフ書記長が登場、社会主義経済を建て直すための「ペレストロイカ(建て直し)」と、その手段としての「グラスノスチ(情報公開)」を掲げて国内改革を実施し、冷戦終結に向けてアメリカとの対話に乗り出した。アメリカはレーガン大統領とジョージ・ブッシュ(父)大統領が対話に臨み、1989年に冷戦終結に合意した。

この間、ソ連邦の統治下にあったロシア、ウクライナ、ベラルーシ、アゼルバイジャン、アルメニア、カザフスタン、キルギスタン(現キルギス)、モルドバ、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、グルジア(現ジョージア)、バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)が1991年に15の共和国に分かれて独立した。独立した多くの国は民主主義、自由経済の道を選んだ。

ゴルバチョフ氏は、80年代末に「欧州共通の家」の考えを打ち出しており、西側との軍事的緊張を解消し旧共産圏を西側経済に統合させることで発展の道を探ろうとしたこともあった。こうした冷戦終結への努力や東西ドイツ統一を承認したことで、ゴルバチョフ氏は90年10月にノーベル平和賞を受賞した。

しかし2000年にプーチン氏がロシア大統領に就任すると、ロシアは欧米との対話路線に決別し、逆戻りしてしまう。旧ソ連時代のワルシャワ条約機構の加盟国が次々とNATOに加盟したためで、プーチン大統領は旧ソ連の統治下にあった東欧諸国やバルト3国などをロシアの統治下に再編することを目論んだ。

ロシアとウクライナの対立の背景には、そうしたプーチン大統領の野望が存在していたのだ。もし再編できればプーチン大統領は旧ソ連邦の領土を取り返した英雄になれると夢想していたわけである。

しかし、現実は旧ソ連が統治していた多くの国々は、逆にNATOに加盟し、ロシアを脅かす存在になってしまっているのが実情といえる。ウクライナもまたNATOへの加盟を期待しロシアのから離れようとした国の一つとみられたため、プーチン大統領はウクライナへの侵攻を行ったといえよう。

現在の国際情勢は、大国アメリカと中国、そしてロシアの三極構造の中で準大国の新興勢力が独自の外交を行ない、存在感をみせているところに大きな特色がある。

その典型がインドとトルコだろう。

インドは元々数千年の歴史を持つ文明国家だった。そのインドは産業革命に乗り遅れ、途上国のような存在になっていたが、いまや人口14億1千万人を抱える世界第2位の人口大国で、国土面積も世界7位と最近の成長は著しい。おそらく23年に世界最多の人口になり、50年には16億6.8千万人に達し、中国を大きく上回ると見られている。それは、国力の基本が人口の数にあることは幾多の歴史が証明しているところだ。インド人は中国の華僑と同様に海外に多くのインド系の人々が存在し“印僑”と呼ばれ、その数は3千万人以上といわれる。

また、インド人は理数系の頭脳に優れていることでも知られる。近代のインドは長く貧困国とみられ中国との紛争問題も発展のネックとみられていたたが、最近になってアメリカが主導する「インド太平洋経済枠組みIPEF)」にアジア太平洋の14ヵ国の国と共に参加している。さらに中国の海洋進出に対応するため今年9月に日本とインドの外務・防衛閣僚会合を開き、日本とインド空軍の共同訓練の推進でも合意している。

日米豪印4ヵ国の首脳会議QUAD)にも参加し、インド太平洋地域の中心的存在としても振舞おうとしている。それは全方位外交の伝統を持ち、とりわけロシアとの関係が深いインドを民主主義陣営に繋ぎ止める狙いもあるようにみえる。

一方、最近力をつけているトルコを取り込むためアメリカはトルコへのF16戦闘機の売却に同意するほか、武器輸出の制約を解除するという。また、トルコがテロ組織として敵視するクルド系組織への支援も停止する意向のようだ。さらに、スウェーデンとフィンランドのNATOへの新規加盟に、当初トルコは反対していたが一転して加盟を承認した。

▲写真 トルコのエルドアン大統領と会談するプーチン大統領(ロシア・モスクワ、2020年3月5日) 出典:Photo by Mikhail Svetlov/Getty Images

トルコとインドは、世界の2000年余の歴史の過程で何度も主役として登場したことがある。いわば“眠っていた獅子”がむっくりと立ち上がってきたともいえる。

しかもインドとトルコは歴史的にみても日本との関係が深く、ともに大の親日国でもある。日本がインド、トルコと手を組んでアジアに新しい波を起こせば、日本はアジア太平洋だけでなくインド、中東にも新たな存在感を持つことになろう

トップ写真:G7サミットに出席するインドのモディ首相(ドイツ・ガルミッシュ=パルテンキルヒェン、2022年6月27日) 出典:Photo by Thomas Lohnes/Getty Images




この記事を書いた人
嶌信彦ジャーナリスト

嶌信彦ジャーナリスト

慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、通産省、外務省、日銀、財界、経団連倶楽部、ワシントン特派員などを経て、1987年からフリーとなり、TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務める。

現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」にレギュラー出演。

2015年9月30日に新著ノンフィクション「日本兵捕虜はウズベキスタンにオペラハウスを建てた」(角川書店)を発売。本書は3刷後、改訂版として2019年9月に伝説となった日本兵捕虜ーソ連四大劇場を建てた男たち」(角川新書)として発売。日本人捕虜たちが中央アジア・ウズベキスタンに旧ソ連の4大オペラハウスの一つとなる「ナボイ劇場」を完成させ、よく知られている悲惨なシベリア抑留とは異なる波乱万丈の建設秘話を描いている。その他著書に「日本人の覚悟~成熟経済を超える」(実業之日本社)、「ニュースキャスターたちの24時間」(講談社α文庫)等多数。

嶌信彦

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