[石川和男]35歳の保育士は平均年収320万円〜保育士資格を有する求職者の半数が「保育士としての就業を希望していない」事実が明らかに
石川和男(NPO法人社会保障経済研究所理事長)
政府は、待機児童解消に向けて「待機児童解消加速化プラン」を進めようとしている。そのためには保育士の確保も最重要課題の一つだということで、『田村厚生労働大臣から保育士確保に関するメッセージ』というのが昨年2013年12月26日に発せられた。
趣旨はごもっともだが、こうしたパフォーマンスによる効果は全く期待できない。保育士の確保にとって何が必要なのか、既に厚生労働省では調査を行っており、その結果の一部は資料1・資料2の通りである。
(資料1)
(資料2)
これは、ハローワークの保育士資格を有する求職者のうち半数は保育士としての就業を希望していないことに着目し、有資格者で保育士としての就業を希望しない求職者に対する意識調査を実施した結果だ。
保育士を希望しない理由で最も多いのは、「賃金が希望と合わない(47.5%)」であり、「他職種への興味(43.1%)」、「責任の重さ・事故への不安(40.0%)」、「自身の健康・体力への不安(39.1%)」がこれに次いでいる。賃金水準が就業動機の全てだとは言わないが、賃金水準が就業動機の相当部分を占めていることは容易に窺える。賃金水準が就業動機において重要な要素であることは、どの業種にも通じることであろう。
保育士の賃金水準については、直近のデータとして『平成24年賃金構造基本統計調査』の賃金構造基本統計調査に関する統計表に詳しい。男女計の年齢34~35歳の場合、月給21~22万円程度で、ボーナス56~60万円を含めて年収320万円程度である。
この賃金水準を低いと見るかどうかは、他業種との比較に因るであろう。国税庁『平成24年分民間給与実態統計調査結果』によると、年間の平均給与408万円(男性502万円・女性268万円;正規468万円・非正規168万円)であることからすれば、保育士の賃金水準は低いと言わざるを得ない。
これを改善する方法は一つしかない。保育制度を一定程度柔軟化することで補助金使途の効率化や民間事業者の工夫を呼び込むことはもちろんだが、やはり保育士の賃金補助として相当の予算を確保する必要がある。
それは、社会保障財政の中で捻出するしかない。少子高齢社会を支える将来世代への投資という趣旨で、高齢者向け社会保障財源からほんとちょっとだけでも移転すべきだ。年金・医療に充てるべき財源のうちの例えば1%であっても9000億円程度に上る。そういう考え方でアプローチしていくしかない。
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