[石川和男]<「待機老人」解消こそ最優先に>特別養護老人ホームの「プライバシー保護」は最優先なのか?
石川和男(NPO法人社会保障経済研究所理事長)
厚生労働省は特別養護老人ホームに関し、プライバシー確保などを条件に相部屋の整備を支援する検討に入ったとのこと。8月18日付け共同通信では、次のように報じている。
<報道要旨 (出所:http://www.47news.jp/smp/CN/201408/CN2014081801001586.html)>
- 現在は改修する場合、個室しか補助対象にならない。
- 施設数が不足している上、低所得の高齢者を中心に負担が少ない相部屋を希望する利用者が多い。
- 地方自治体の間にも相部屋を認めるべきだとの声があるため、個室化推進の原則は維持しつつ、相部屋も容認する。
- 厚労省は2000年代初から、ケアのしやすさや居住環境を重視して全室個室化を目指す方針を掲げてきており、相部屋支援は方針修正を意味。
特養の個室ユニット化については、これまで確かに推進されてきている。しかし、その方針はもっと早くに転換されるべきであった。厚労省が作成した資料1~3にあるように、プライバシー保護の必要性は理解できなくもないが、そのために費用が相当嵩んでいることがわかる。
これを今後このまま推進しようとしても、介護保険財政の持続性を維持する観点からは容認されないであろう。プライバシー保護と給付水準を天秤にかける必要があるが、答えは自明だ。
相部屋でもプライバシー保護に支障がないように工夫することは一定程度は必要なのだろうが、それによって介護保険給付が別の嵩みをもたらすようなことがあってはいけない。
比較的に資金的余裕のある特養入所者が介護保険事業に係る基準を相当超える自己負担によって個室を選択するような場合はさておき、一般的には介護保険事業の自己負担の中で考えていく必要がある。そうなると、介護保険財政の現況及び将来の見通しからして、高コストのプライバシー保護の優先順位が高いとはとても思えない。『待機老人』の解消が最優先課題であるはずだ。
高齢者ケアが人間社会において大事なことであることは、わかりきったことだが、公的資金による給付水準の高止まりは容認され続けるべきではない。そういう意味において、上記記事にある軌道修正は前向きに評価される。
介護保険による介護は公的資金によるサービス産業の一つであり、民間ビジネスと同様、事業の費用対効果を上げようとするのは当たり前の王道である。
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