[石川和男]GDP比20%超の「年金・医療・介護」に対し「子ども・子育て」わずか1%〜「待機児童」ホントは何人??「潜在的な待機児童」は最大で198万世帯・364万人の試算
石川和男(NPO法人社会保障経済研究所理事長、東京財団上席研究員)
横浜市は、今年4月に「待機児童ゼロ」を達成した。ところが12月10日になって、待機児童数が10月1日時点で231人に増えたと発表した。これは、4月以降の今年度途中で保育所の入所申込が増えたことによるもので、待機児童ゼロと発表した効果で潜在的な待機児童が掘り起こされたとも言える。
待機児童ゼロは横浜市当局の努力の成果であり、それを知った市民の中には子どもを預けて働く人が増えたり、市外や県外から横浜市に転入してくる人が増えたとのことだ。しかしこれは、待機児童ゼロになったことと、子どもを保育所に預けるのに困っている人がゼロになったことは、決して同じことではないということである。
待機児童の数え方は様々だ。厚生労働省の調査によると、「認可保育所に申し込んでも入所できない待機児童」は、今年4月1日現在で22,741人。保育所利用児童数が212万人であることに比べれば待機児童数は少ないと思うかもしれない。
しかし、都市部を中心に保育所に入れない「潜在的な待機児童」の数は遥かに多い。厚労省の調査によると、更に85万人の認可保育所への利用ニーズがあるとされている。因みに、筆者が以前に試算したところでは、認可保育所に申し込んだかどうかを問わない「潜在的な待機児童」は、最大で198万世帯・364万人に上る。政府は、待機児童の数え方を早急に統一すべきだ。
こうした“待機状態”を解消することは、保育サービスを直接受ける乳幼児だけでなく、現役世代への恩恵も大きい。現役世代、特に若い親たちにとって働きやすい環境を整えることは、女性の社会進出を後押しするだけでなく、少子高齢社会で労働力を確保する国策としても今後ますます重要となるはずだ。
社会保障というと、とかく年金・医療・介護など高齢者向け施策に関心が行きがちだが、保育など子ども・子育て世代向け施策も充実していく必要がある。日本の社会保障給付費のうち年金・医療・介護はGDP比で20%超だが、子ども・子育ては同1%程度しかない。財政が厳しい折、高齢者向け予算を削ってでも、子ども・子育て向け予算を増やしていくべきだ。
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