電力自由化、そのメリットは? 社会保障経済研究所代表石川和男代表
Japan In-depth 編集部(Emi)
今回は、「電力小売の自由化」がテーマ。自由化で消費者にメリットはあるのか、自由化の先には何があるのか?社会保障経済研究所代表の石川和男氏に聞いた。
東日本大震災後に湧き上がったエネルギーシステムへの危機感から、50年に1度の改革が進められようとしている。電力に関しては「広域運用」と「全面自由化」、「発送電分離」の流れだ。
今注目されている「電力自由化」について石川氏が解説した。3月までは、東京であれば東京電力から独占的に電気が供給される。しかし4月1日以降は、例えば関西電力系の電力小売会社が東電管内に営業所を置いて、「東電よりは2%くらい安くできますよ」と言って東電管内の人に電気を販売するということが堂々と出来るようになる。今までは、法律で規制されていたが、誰でも電気が売れるようになるということだ。
電力自由化というと、既存の電力会社以外が発電して電気を送ると思う人もいるだろうが、石川氏は、それは違うと明言する。発電部門については1995年に自由化されているが、あまりその効果は出ていない状況だ。今回の自由化は、末端で誰が売るかということ。つまり小売店が新たに出来ることだという。
自由化で気になるのは、「電気代が安くなるのか?」ということだろう。
石川氏が指摘する通り「東電より下がらないと誰も買わない。」わけで、顧客獲得競争は激化の一途をたどっている。そこで、今各社が力を入れているのが、電気とガスやCATV、光ファイバーなどの「セット販売」だ。旅行や米など様々な商品とのセットも現れ、各社お得感を前面に打ち出し、必死だ。
しかし、石川氏の見方はシビアだ。電力使用量の多い人にはメリットもあるだろうが、あまり使わない人、低所得層の人にとってはそれほどのメリットはないという。契約アンペア数が比較的高くないと、セットメニューは使えない場合も少なくない。
よく「消費者が電力を選ぶ時代」と言うが、実際には、供給側が客を選ぶという状況になるのではないかというのが石川氏の懸念だ。低所得者を含め皆が選べるというのではなく、販売業者は必然的に電力使用量の多い“上客”を選ぶことになり、そこに不公平感が生まれるのではないか。自由化に関する法案を通す前に、この点の説明がなかったのは、フェアではないとの指摘だ。
続いて安倍編集長が、東京電力の料金について、既にライフスタイルによっていくつかプランがあり「半日お得プラン」を契約している、と紹介。今回の自由化に伴う最新の料金体系との価格差をHP上でシミュレーションしてみたら、逆に料金が高くなるとの結果が出た。さすがに、既にお得な料金プランを契約している人にまで、より安いプランを提供するつもりはないようだ。何とも複雑な状況だ。消費者も賢くならなければならない。
自由化で気になるのは、料金の話だけではない。自由化によって太陽光や風力といった「再生可能エネルギー」が増えるのかということだ。
石川氏は「自由化したからといって、増えるというインセンティブはない。」と言い、今後どのような支援策が取られるかということにかかっているとした。あまり意識している人は多くないだろうが、既に電気料金の中に「再エネ発電付加金」が含まれている。
そしてもちろん、実際にどれだけの人が電気の購入先を変えるのかということが最大の関心事だ。電力広域的運営推進機関によると、1月末までに切り替えを決めた消費者は、全国で5万5000件。大手マスコミでは、「5万5000件にのぼる」などと紹介されたが、全国には5600万世帯あり、実は0.1%にも満たない。
放送中に実施したアンケートの結果は、以下の通りだ。
Q.「新電力を検討しますか?」
YES: 25.0%
NO: 68.8%
考え中:6.2%
石川氏は、このほか、電気料金に大きな影響を与える、原子力発電の現状にも言及した。「電力自由化」は単なる夢物語ではない。自由化の先に何が起きるのか、Japan In-depthでは検証を続ける。
(この記事は、ニコ生Japan In-depthチャンネル 2016年2月10日放送の内容を要約したものです)
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この記事を書いた人
石川和男NPO法人社会保障経済研究所理事長
1989〜2007年、東京大学工学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。エネルギー政策、産業保安政策、産業金融政策、中小企業政策、消費者政策、物流・流通政策などに従事。2008〜09年、内閣官房・国家公務員制度改革本部。その後、政府の規制改革会議、行政刷新会議WGなどの委員を歴任。現在に至る。