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.国際  投稿日:2016/5/31

国連特別報告者 お粗末な安倍政権打倒活動


 

 古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

国連特別報告者として日本の報道の自由を調査するとして来日したアメリカ、カリフォルニア大学アーバイン校のデービッド・ケイ教授が帰国後すぐに慰安婦問題などでの反日運動で有名なアメリカ人学者と共同発表することを本コラム5月20日付「国連特別報告者、反日の系譜」という題の報告で伝えた。今回はその共同発表の概要がわかったので紹介しよう。その二人の発表はもっぱら安倍晋三政権への反対まずありき、という極めて政治性の強い活動を反映していた。

ケイ氏は4月12日から19日まで日本に滞在し、日本での報道の自由の実情を調査するとして、日本側の官民両方の関係者複数と面談した。その結果を4月19日に東京で記者会見して、「日本の報道の自由は政府の圧力や抑圧により危機に瀕している」という趣旨を総括した。この結論に対し日本政府の外務省などやニュースメディアの一部は「そんな事実はない」という反論をすぐに公表した。日本政府では近くケイ氏への反論を文書にまとめて公表し、国連本部へも伝達するという。

ところがケイ氏は5月12日に母校のアーバイン校ですでに「日本の言論の自由への脅威」と題する公開討論を開くことを発表した。しかもその討論の相手が日本の慰安婦問題を長年、糾弾し、とくに安倍晋三首相への一方的な非難を続けてきたアメリカのコネチカット大学のアレクシス・ダデン教授だった。その討論の結果が共同発表となるわけだ。

日本側の反論がまだ出ないうちにアメリカ国内で一方的に日本の「言論弾圧」への断罪を打ち上げるというこの動きに、アメリカの別の日本研究者からは「アメリカ学界の一部の偏向した安倍叩き、日本叩きの勢力が国連までを利用するという非常に政治的な動きだ」という批判が出ていた。

さてこの5月12日の公開討論の結果がカリフォルニア州在住の日本人学者の目良浩一氏により報告された。目良氏はアメリカ国内での反日の中韓ロビー組織に反論する日本側の「 歴史の真実を求める世界連合会(GAHT-US )」という団体の代表である。アメリカではハーバード大学などで教鞭に立った長年の教育歴、学者歴がある。

その目良氏はカリフォルニア大学アーバイン(UCI)校での集いに出かけ、実際にその会合に出席して、質問などもした末に以下の報告を記していた。

・この討論会は広大なUCIキャンパスの建物の一つの会議室で開かれ、机がロの字型に並べられた室内には20人ほどの参加者がいた。大学院の学生が数人の他は、他大学、他学部からの教職員のように思われた。

・発表はダデン氏の「日本の『特定秘密保護法』が市民の知る権利を侵す」という主張から始まった。ダデン氏は2014年に発効した同法が日本政府内部の特定の安全保障上の秘密を守る法律なのに対して日本政府は情報の抑圧に使っていると非難した。

・ケイ氏は最近の高市早苗大臣の放送法適用に関する「放送を停止することもありうる」という声明が報道の自由を束縛する目的であり、証拠だという主張を展開した。同氏は日本に1週間、滞在しただけだが、日本のメディアの状況を熟知している如く語った。

・ダデン、ケイ両氏に共通するのは、安倍政権により日本では報道の自由が抑圧され、その結果、日本は危険な道を歩み始めたと強調する点だった。この種の主張を誇大に宣伝することで自由民主党政権の打倒を狙う勢力に意図的に協力しているとしか思えない。

・私(目良氏)はケイ氏に日本メディアの実際の偏向状況を知っているか、また、日本で面会した人のリストを公開できるかと尋ねた。いずれの質問にも明確な答えは得られなかった。

以上が目良氏の現地からの報告の骨子だった。

簡単に述べるならば、ケイ氏は日本での1週間だけの「現地調査」で自由民主主義の同盟国の政府の統治を「言論や報道の自由の抑圧」と断じているのだ。ダデン氏もその日本糾弾に同調し、特定秘密保護法までも「言論や報道の自由の踏みにじり」と特徴づけているわけである。

二人とも冒頭からどこの国にもある安全保障上の秘密保護の規則をいかにもニュースメディア弾圧の手段であるかのように断じたわけだ。こうした主張の背後には自民党や安倍首相の施策はすべて悪とするような政治偏向の姿勢が浮かびあがる。

UCIでの公開討論会は国連特別報告者という人物のそうした政治的な偏りを改めて裏づけたといえよう。

(この記事は「国連特別報告者 反日の系譜」の続きです。)

    


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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