朝日が書く「報道への圧力」NHKは否定
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
朝日新聞はこのところ「日本のニュースメディアは政府の圧力に抑えられている」という主張を熱心に広めている。とくにテレビのニュース関連番組に関しての「政治権力の圧力」を強調するのだ。
ところがNHKの代表的なニュースキャスターがそんな圧力はまったくないと否定した。同キャスターの言葉どおりならば、朝日新聞の描く「メディアへの政治の圧力」は虚構の政治宣伝ということになる。
朝日新聞は4月20日付朝刊から「教えて!ニュースキャスター」というタイトルでの連続インタビューの掲載を始めた。その連載の冒頭には「政治権力の側からテレビへの『注文』が相次いでいる」と書かれていた。そして朝日新聞側の問題提起として以下の記述もあった。
「テレビでは(中略)国谷裕子、岸井成格、古舘伊知郎の3氏が番組を去った。(中略)何らかの圧力や局側の忖度があったのではないかとの疑念も残る。研究者やジャーナリストたちから、政府・与党の動きに対して懸念の声も上がっている」
「テレビの表現の自由は揺らいでいないか。日々のニュースは、萎縮することなく伝えられているのか」
上記のような朝日側の認識に基づいて、この記事に登板したのはNHKの「ニュースウォッチ9」という番組のキャスターの河野憲治氏だった。国際報道体験の長い記者である。
その河野氏は以下のように語ったのだ。
「昨今、国会では『政治的公平性』が話題になっていますが、僕たちの現場で外から圧力を感じたり、萎縮して忖度したりすることはありません。忖度という言葉が独り歩きしている部分もあると感じます」
ちなみに「忖度」というのは「他人の心中をおしはかること」という意味である。だからこの場合は政府や与党の考え方、あるいは野党や他のメディアの考え方を勝手におもんばかって、自分の表現を左右するという自主規制を指すといえよう。
とにかくNHKのニュースの看板キャスターの河野氏は政府や政権からの「圧力」も、政権側の意向に配慮しての「忖度」もないと完全に明言したのだった。朝日新聞が執拗に提起する「政治権力の圧力」を否定したのである。
政府や与党の関係者がニュースメディアの内容について意見を述べることは国民の誰にも認められた表現の自由、言論の自由につながっている。政府や与党の代表が放送法という日本国の法律に違反した場合の措置を語ることも法治国家としてむしろ必要な動きだといえる。
だがこうした言動はニュースメディアに一定の圧力をかけ、報道や論評の内容を変えさせるという強制的な要素がある「圧力」とはまったく異なる。NHKの代表はそんな圧力はまったくないと断言したのだった。
このNHK代表の言葉が日本のメディア界の現実であれば、朝日新聞がしきりに宣伝する「圧力」や「忖度」は虚構の絵図ということになる。しかもきわめて特定の政治意図が露骨な虚構のようなのだ。その意図自体が別種の「圧力」ともいえそうである。
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。