.政治  投稿日:2016/11/4

自衛隊に駆けつけ警護できる戦闘能力はない その1 情報編

フランス陸軍の先進歩兵システム、フェラン。火器には暗視装置やビデオカメラが装備され、ネットワーク化されている。
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清谷信一(軍事ジャーナリスト)

昨年の安保法制改正にともない、自衛隊がPKO活動などで他国の部隊や民間人などが襲撃を受けた際に、これを武力を持って救援する、いわゆる「駆けつけ警護」が可能になった。安倍首相は、自衛隊は軍隊と同じであり、法律さえ変えれば「駆けつけ警護」といった「かんたんな任務」はこなせて当たり前と思っているのだろう。だがいくら法律が変わっても自衛隊にその能力はない。自衛隊は軍隊として実戦ができない組織だ。自衛隊の現状のまま「駆けつけ警護」をやらせれば他所の国の軍隊の何倍もの死傷者を出すことが予想される。

手足がもげ、一生義手義足、車椅子で生活する、あるいは視力を失って白い杖をついて一生を終わる隊員が続出する可能性がある。政治と行政の無策で戦死者、重度の身体障害者を量産するだけに終わるだろう。それらは政治家と防衛省が真摯に「軍隊」として戦う体制を構築すれば防げる被害だ。政治家、特に与党の政治家たちには脳天気にも自衛隊=軍隊という誤った認識しか持っていない。単に国益とか、国際貢献とか口当たりのよい言葉に酔って実戦を安易に考えているのではないか。

筆者は駆けつけ警護自体を否定するものではない。国益を鑑みて、PKOやPKFに部隊を出すことは奇異なことではない。また軍事作戦において犠牲がでることは当然であるとも考える。だがそれは自衛隊が軍隊と同等の能力と当事者意識を持ち、政府と防衛省が、現場の部隊が遭遇するであろう危険に対して最大限に対策を取らせてはじめて行うべきだ。自衛隊の現実の戦闘をあたかも映画かゲーム程度の認識で、安っぽい国家意識や愛国心から安易に自衛隊を戦闘に投入し、隊員を犬死にさせるべきではない。

率直に申し上げて、自衛隊と軍隊はナリが似ているだけで、全く異なる組織だ。それは自衛隊が全く実戦を想定していない、パレード用の軍隊でしかないからだ。故吉田茂はかつて、「自衛隊は戦力なき軍隊である」と述べたが、自衛隊の実態はその言葉そのものである。警察予備隊発足当時からソ連崩壊に至るまで、自衛隊が期待されたのは西側の一員としての一定規模の「軍隊らしき」組織として存在することだった。商売の見せ金のようなもので、実際に戦争をすることは期待されてこなかった。つまり、なんとなく「軍隊らしい」存在として西側世界の軍事力のカサを上げる存在であればよく、実戦を行うことを全く想定してこなかった。

演習をそつなくこなすことや、災害救助こそが自衛隊の任務であり、自衛隊に実戦を想定した用意も訓練もしてこなかった。演習では敵弾は飛んでこないし、敵弾によって命や手足を失うことはない。このため自衛隊は営々と戦闘機や戦車など軍隊らしく見える「見栄えのいい道具」を買うことだけを目的とし、その運用や実戦での使用を考えてこなかった。率直に申し上げれば自衛隊は「軍隊のフリをしていれば良い組織」なのだ。

かつて、防衛庁の天皇と呼ばれた内局官僚で、後に評論家に転じた故海原治氏は、この点を厳しく指摘してきた。海原は30年、40年も前に自衛隊は実戦を全く想定してない組織であると指摘していたが、その実態は全く変わっていない。

戦死者、戦傷者が出ることを全く想定していないので、ピカピカの戦闘機や戦車は過分に欲しがるが、兵站や基地の防御、戦傷治療、通信、情報といった「裏方」にはカネをケチってきてまともなシステムを構築してこなかった。そもそもそういうものが必要だという認識がない。

多くの国民が誤解しているが良くも悪くも自衛隊は軍隊ではない。元気のいい保守派の政治家や、「論客」の皆さんが信じている「精強たる自衛隊」はイリュージョンでしかない。そのような誤解が蔓延している一因は記者クラブという制度にある。記者クラブ会員の記者は軍事に明るい専門の記者ではなく、比較的若手がローテーションで当てられているだけだ。このため先端の軍事術は勿論、軍事に関する世界情勢は勿論、専門的な知見が無い。だから防衛予算について、具体的な質問ができないし、するつもりもない。

しかも彼らが独占する記者会見では大臣や幕僚長が困るような具体的な予算に関わるような質問はしない。筆者から見ると馴れ合いにしか見えない。つまり素人が当局と馴れ合っている状態だ。そしてその情報源は内局や幕僚監部からのご説明であり、彼らの説明が本当かどうかも検証する能力がない。また諸外国の実態を取材もしていないで海外の軍隊と自衛隊を比較することもできないので「大本営発表」を鵜呑みにする。

そのマスメディアが自衛隊精強の虚像を垂れ流し続けてきた。このため多くの国民が自衛隊は精強だと誤解している。だがその実態は大規模な戦争はもちろん、駆けつけ警護ですら満足に行える実態はない。敢えて誤解を恐れずにいえば自衛隊ができるのは戦争ごっこであり、実戦ではない。

「駆けつけ警護」という実際の交戦の場では情報収集と分析、火力、防御力、衛生などの要素が必要であるが、いずれにしても陸自のレベルは、NATO諸国はもちろん、途上国よりも劣っている。この点を多くの日本人は理解していない。

今回はまず自衛隊の情報体勢を取り上げてみよう。まず駆けつけ警護が必要なのか、必要であるならばどのような状況であるのかをできるだけ正確に把握する必要がある。軍隊ではこれをISR( Intelligence, Surveillance and Reconnaissance:情報・監視・偵察)と呼ぶが、この能力が自衛隊は極めて低い。まず情報機関がないために、現地情報、特にヒューミント(HUMINT:Human intelligence 諜報活動)情報が入ってこない。また人的なネットワークが現地に存在しない。またアフリカや中東に関わりが深い、英国やフランスとの連携も不十分だ。

最近増員された防衛駐在官にしてもその地域のエキスパートというわけでも情報の専門家でもなく、派遣に際して十分な訓練もされていない。しかも情報活動に必要な予算も極めて少ない。これは外交の一元化という名の元、本来防衛省が担当する情報収集を防衛省が放棄していることも大きい。陸自に至っては、歩兵、砲兵、工兵、機甲などと並んで諸外国では当然存在する情報科という兵科が6年ほど前まで存在すらしなかった。それだけ情報を軽視してきた組織ということだ。

更に現地で情報を収集するためにUAV( Unmanned Aerial Vehicle : 無人機)などのアセットが必要だが、これが欠如している。対して近年は途上国ですら、各部隊サイズの偵察用UAVを保有している。日立が開発し、陸自が採用した手投げ式の携行型UAV、JUCX-S1は高度計に不備があり、飛ばした半数が帰ってこない体たらくだ。しかもこれすら筆者が知る限り現地に持ち込まれていない。

陸自にはより大型のヘリ型遠隔操作観測システム、その発展型である無人偵察機システムが存在するが信頼性が低く、先の東日本大震災では一度も使用されなかった。その後国会で防衛省は、無人偵察機システムは導入後1年で習熟期間が足りなかったと抗弁したが、今年発生した熊本地震でも使用されなかった。しかも支援用の地上システムが6両ほどの車輌からなる大掛かりなものであり、PKO用には向かない。そしてその後調達は中止された。これら以外のUAVを陸自は保有していない。つまり陸自のUAVは極めて少ない上に、その信頼性も極めて低い。これは中国やパキスタン以下である。とても先進国の軍隊を自称できるレベルではない。

イラクのサマーワに部隊を派遣した際に、陸自はヤマハの民生用の小型のヘリ型UAV、RMAXを改良したUAVを導入した。これは信頼性も高く、大活躍したのだが、その後は使用されなくなっている。陸自全体の装備としてはともかく、「実戦」で有用であることが認められた装備をPKO用として継続して使用することが何故できないのか。

ヤマハのファザーR G2.RMAXの発展型で本年の航空宇宙展に出展された。

またそれ以外にも国内には優れたUAVを開発している、フジインバックヒロボー、その他多くのメーカーが存在し、防衛省の装備調達庁が開発するUAVよりも遥かに安価で性能と信頼性が高い製品を供給している。だが、防衛省は既存の防衛企業でないためか、これらの企業から無人機を調達して使用するという発想が欠如している。あるいはこれらの企業には天下りできないからではないかと疑われても仕方あるまい。

ヒロボーがデンソーと開発したドローン、HDC01。防衛省よりも純粋に民間で開発された無人機の方が能力が高く、信頼性も高い。

通信機も問題だ。陸自では近年最新型の広帯域多目的無線機を導入したが、通じないことが多いと現場で不評である。無線機に関する話題では、伏せてアンテナの位置が低くなる、あるいはアンテナが横向きになるだけで電波の送受信状態が悪くなり、通信が途絶するというコントのような話も聞こえてくる。原因は自衛隊向けの電波の周波数帯が軍用無線に適していないことだ。これは先の東日本大震災でも陸自の無線が通じなかった大きな要因だったが、防衛省はこの「戦訓」を無視している。これは法律の改正すら必要なく、総務省との調整が必要なだけだ。だがそれすら怠り、通じない無線機の調達を続けている。

現代戦ではネットワーク化が進み、無線通信は音声だけではなく、データや動画のやり取りも行われる。例えば敵の情報を動画や、デジタルマップ上の情報で、やり取りし、射撃の諸元などもデータでやり取りする。この分野では自衛隊は大きく遅れており、未だに音声通信と紙の地図を多用している。仮にNATO並の装備を導入しても無線が通じないなら無意味であり、カネの無駄だ。

暗視装置などが組み込まれたターゲットロケーターを使用するイスラエル軍兵士(奥)と、PADでデータを送信する兵士t(手前)。自衛隊にはまだ導入されていない。

「駆けつけ警護」の現場で無線が通じなければどういうことになるだろうか。素人にも分かる話が防衛省や陸幕の偉い人たちにはわからないようだ。

何故周波数帯の問題が放置されているのだろうか。恐らくは総務省の調整という「余計な仕事」をしたくないからと、これを非関税障壁として利用しているからだろう。外国製の通信機やネットワーク機器、更には無人機に至るまでそのままでは自衛隊で使用できない。この規制がある限り国内メーカーは保護される。国内メーカーは、実戦はもちろん市場で揉まれたこともないので、まともな製品が作れず、調達コストも高い。このような国内メーカーの維持を、天下り先の確保のために実戦能力を放棄することを甘受しているならば許しがたい。

イラク、アフガンでの戦い以降、個々の将兵に持たせる音声用の個人無線機を支給する軍隊が増えている。また近年では米軍やイスラエル軍のようにクローズドのネットワークのスマートフォンを持たせる軍隊も出ている。このような個人携帯無線機は、現場では隊員相互の意思疎通が円滑になり、効率的な戦闘と、無用な被害を減少させることに非常に有用だ。だが自衛隊には無論これらの装備はないし、調達するつもりもないだろう。

国内の演習場では無線機が使いものにならないので、演習で隊員たちは私物の携帯電話を使用している。だが東日本大震災では携帯電話の基地局も被害にあって携帯電話が使えなかった。PKOでも同様に私物の携帯電話でコミュニケーションを取ることはできない。意思の疎通ができない「軍隊」実戦でまともに戦えるわけがない。

イタリア、レオナルド社の個人無線システム、PRR.英軍はアフガンで全歩兵に装備させた。

現場の情報が不明であれば、敵の規模、味方の位置、民間人がどの程度いるかも不明ということになる。自衛官が間違って自衛官や、味方の軍人、あるいは民間人を殺傷する可能性は極めて大きい。ネットワーク化され、敵味方の識別装置なども導入している先進国の軍隊でもイラクやアフガンでは多くの同士討ちや、民間人に対する誤射が生じている。それが批判されていることはご存知だろう。

故に自衛隊部隊が誤射をする可能性は大きい。現地で自衛官に撃たれた我が子を抱いた母親の姿が世界中に流されたら、誰がどのように責任を取るのか。自衛隊の情報能力が諸外国に大きく劣ることが世間に明らかになれば我が国は威信を失墜するだろうし、抑止力も大きく減退するだろう。そのような自体を政府は想定しているのだろうか、甚だ疑問である。

その2は7日月曜日から毎日23:00配信予定。全5話。)

 

トップ画像:フランス陸軍の先進歩兵システム、フェラン。©清谷信一

文中画像:①ヤマハのファザーR G2.RMAXの発展型

②ヒロボーがデンソーと開発したドローンHDC01

③暗視装置などが組み込まれたターゲットロケーターを使用するイスラエル軍兵士(奥)とPADでデータを送信する兵士(手前)

④イタリア、レオナルド社の個人無線システム、PRR.©清谷信一

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この記事を書いた人
清谷信一軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家

日本ペンクラブ会員

日本コスト評価学会会員

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 1962年生。東海大学工学部卒。

軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。

08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。

軍事を主たるフィールドとし、海外取材活動(欧州、中東、南アフリカなど)を活かした国際的な見地に立った著作活動を行う。内外の具体例に基づいた防衛省・自衛隊批評や提言は元防衛庁長官、石破茂氏にも影響を与え、石破氏が長官時代の防衛庁改革ではその指摘の是正が少なからず実現した(三自衛隊の統合運用や特殊部隊、狙撃部隊の創設、陸自の旅団導入、空自の基地警備、海自の地方隊の縮小など)。

自ら起業して、貿易や小売業を手がけており、起業家の視点からの執筆も多い。またサブカルチャーにも造詣が深い。90年代初頭からアニメやマンガなど日本のサブカルチャーの世界進出をいち早く予見、これを国益の観点から論じた。著書「ル・オタク フランスおたく物語」はこの分野の基礎文献となっている。

専門誌はもちろん、右は「正論」から左は「週刊金曜日」まで幅広い媒体にイデオロギーにとらわれず寄稿。また、日経ビジネスオンラインや朝日新聞のWEBRONZA+などのネット媒体にも寄稿。

〔著作〕

  • 国防の死角(PHP)
  • 専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)
  • 防衛破綻 「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)
  • ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)
  • 自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)
  • 弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)
  • こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)
  • 不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)
  • Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。

〔共著〕

  • 軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)
  • すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)
  • アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)
  • ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)
  • 世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)
  • 現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)
  • 間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)
  • 達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)
  • 真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)
  • 熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。

〔監訳〕

  • ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)
  • SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)
  • 太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)

〔ゲーム・シナリオ〕

  • 現代大戦略2001~海外派兵への道~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2002 ~有事法発動の時~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略2003 テロ国家を制圧せよ(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2004 ~日中国境紛争勃発!~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2005 ~護国の盾・イージス艦隊~(システムソフト・アルファー)

 

清谷信一

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