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スポーツ  投稿日:2016/11/18

自分にフィードバックする仕組みを持とう


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

昨日、個人の戦い方という話をしていろいろ自分の中で整理されたものがある。私は現役時代コーチがいなかったから、何が一番難しかったかというとフィードバックだ。フィードバックがなければ人は何も修正することができない。

人間は自分を観察する目というのを多少は持っているから、仕事を行なった後で、あの時こうすればよかったなとかこう見えていただろうなということを想像することができる。そしてそれを次回までに修正する。一方で、自分で自分を観察するわけだからそれなりに歪みもあるし、見えてない視点もある。

コーチが果たす役割はこのフィードバックという点が大きい。一定量の選手を見てきたコーチであれば、フィードバックが的確で、それを聞くことにより選手は自分の位置を確かめる。ところがこのフィードバックが機能しない選手がいる。眺めていると二つの特徴があるように思う。一つはプライドの高さ、もう一つはビジョンのなさだ。

プライドが高い選手は想像の通り、フィードバックを受け入れない。一見温和に見えていても腹の底ではプライドがガチッと固まっている場合があるから、その場合にもほとんどフィードバックは機能しない。

観察すると自分はこうであるべきというのがあまりにも強く出来上がっていて、一方で本来の自分はあるべき自分とずれていたりするから、その違いが浮き上がるようなことを嫌がっている。なんでそうなるかというと、本来の自分をまず認めるという余裕がないからだと思う。自信がなければ自分を認めることができない。結果あるべき自分を守ることに必死になるが、本来の自分はずっと変わらない。

もう一つはビジョンのなさだ。成長したくなければフィードバックなんていらない。いつかこうなりたいがあるからこそ、現状の姿とのギャップがわかり、何をすればいいかがわかる。世界で戦うということが過剰に評価されているなと思うことも多いが、一方で大きい効果があるのは、世界で戦えそうか、から逆算して物事を考える癖がつく点だ。視点がやはり一つ高くなる印象がある。

高いところに行きたくなければ、それほど自分を変える必要はないが、すごく遠くに行きたければものすごいスピードで自分を変え続けないと間に合わない。その点で、世界に行ったことがあるというのは大きいなと思う。

現役時代もコーチが鬱陶しい、自分だけでやりたいという選手は多くいたが、かなりの数が潰れた。それはこのフィードバックシステムを自分の中だけで回せなかったからだと思う。自由の辛さは、自分の状態を把握しながら、ビジョンを掲げ、そのギャップを埋めていく作業を、自分だけで行わないといけない点だ。そして大人になればおそらく多かれ少なかれ、自分で自分にフィードバックし育てる仕組みを持つ必要があるのだろう。

為末大 HP より)

 


この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

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