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スポーツ  投稿日:2016/11/1

意識の取り合いとブランディング


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

昔PRの会社にマネジメントをしてもらっていて、その時にいろいろと学んだことがあって、例えばお昼のニュースに間に合うにはこの時間までにイベントをやって、撮ってもらわないといけないとかノウハウがたくさんあった。それでもコントロールできないものはあって、せっかくニュースにしたいのに、もっと大きなニュースがぶつかってきたらせっかく仕込んだものが一気に吹っ飛んでしまってがっくりしていることもあった。

昔はテレビが24時間しかないことや、新聞の一面があれだけのサイズしかないことが様々なものを決めていたと思う。自分を有名にする上でも、その枠の中のどの程度の割合を取れるかが大事だから、どうすればその一部に入り込めるかと考えていた。

最近思うのは、昔とあいも変わらず取り合いっこはしているのだけれど、昔はニュースの取り合いっこをしていたのが、今は人々の意識の取り合いっこに変わったなということだ。昔はイメージで言えば穴は少ないがひなはたくさんいるからどうやってその穴に餌を突っ込むかの競争だったのが、今は穴があちこち空いているのでいかにひなに興味を持ってもらうかの競争に変わったように思う。無論、SNSの登場が大きいのではないか。

結局のところ、世の中の情報の制限は個々人の意識の総量が決めている。個人が1日に意識できる量が10だとしたら、それをどう取り合うか。日本全体で言えば120億の意識を誰がどういう風に取り合うのか。

一方で意識の取り合い競争から放たれている人たちや、コンテンツもあって、なんでそんなことになるんだろうなと思ってよく眺めていると、そこに意識が向かうというのが習慣化されているものが多かった。それをブランドというのかもしれないが。

認知科学では人間は意識的に見ているのではなく、見ているものや外界の情報に刺激されてそのことに意識を馳せるという順番があると言われている。ハンバーガーの匂いがしてお腹がすいたと意識するというやつだ。人間の意識なんてそんなものかもしれないので、選択をしたという意識すらなく支配できればこれは強い。けれども、よっぽど魅力的な人でないとなかなか難しいので、私のような人間は日々一生懸命発信をして少しでも意識の一部分をこちらにいただくというやり方しかないのだろうなと思う。

為末大 HPより)


この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

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