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.国際  投稿日:2026/6/23

トランプ流の米イラン交渉を痛烈批判!11の論点と歴史的教訓


執筆:宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問) 

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#25

2026年6月22-28日

 

【本稿のポイント】

・トランプ大統領は米イラン覚書を「歴史的和平の仲介(ブローカー)」と自賛するが、米国は紛争の当事者であり、その外交姿勢は極めて稚拙である。

・本合意は「了解覚書」ではなく「誤解覚書」であり、中東の戦争を終わらせるどころか、むしろ次の戦争を不可避にするものである。

・イランの核兵器取得への動きやホルムズ海峡の実質支配、エネルギー市場の不可逆的変化など、今回の交渉が残した歴史的教訓は極めて重い。

 

ホワイトハウスからのニュースレターに躍った「トランプ大統領、歴史的なイランとの和平取引を仲介(ブローカー)」の文字。紛争当事者の米国が、他人事のように振る舞う外交の稚拙さに思わず仰け反った。 今回の合意は、中東に平和をもたらす「了解覚書」などではなく、次の有事を決定づける「誤解覚書」にすぎない。NHK「日曜討論」で語り切れなかった「11の論点」と、今回の交渉が残した教訓について、キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問の宮家邦彦氏が解説する。(Japan In-depth編集部) 

 

■「ブローカー」気取りのトランプ大統領に仰け反る

今朝いつもの通りメールを開いたら、ホワイトハウスからメールが届いていた。Weekly Briefingと題するニュースレターだが、そのヘッドラインに思わず仰け反ってしまった。見出しは何と「トランプ大統領、歴史的なイランとの和平取引をブローカー」とある、英語では「President Trump Brokers Historic Iran PeaceDeal」・・・??。

それにしても、一体何を考えているのか。「ブローカー」という動詞は「仲介する」意味のはず。トランプさん、あなたは「ブローカー」じゃなくて、紛争の「当事者」なんですけどねぇ、まるで他人事のように・・・。紛争当事国の米国がイランとの「和平取引」を「ブローカー」なんかできる訳がない。

むしろ、今回あなたは「負けた側」に近いじゃないですかと「突っ込み」を入れたくなるぐらい、衝撃的なメールだった。

それにしても、振り返ってみれば、過去一週間、相変わらずだが、トランプ節は炸裂しまくっていた。こんなことで、イランとの交渉がうまく行くとは到底思えないのだが・・・。

 

■米イラン交渉、11の論点 日曜討論で語り切れなかったこと 

実は先週日曜日に「日曜討論」に出演する機会に恵まれ、ずいぶん「頭の整理」をしていたのだが、一時間という時間的制約もあり、全てについて生放送でコメントすることはできなかった。そこで今回はスタジオ内で喋れなかったことも含め、筆者がこの数日間で考えたことを、以下の通りまとめておくことにしよう。思いつくまま箇条書きにすれば、

第一に、これほど外交的に稚拙な交渉は見たことがない。

第二に、(先週も書いた通り)これは了解覚書(メモランダムオブアンダスタンディング)ではなく、誤解覚書(メモランダムオブミスアンダスタンディング)である。

第三に、戦争を終わらせる合意というが、むしろこれで次の戦争は不可避となった。

第四に、イランが核兵器取得に向けて本気で動く可能性はむしろ高まった。

第五に、イランはホルムズ海峡「開放」で相当程度の財政的余裕を得る。

第六に、新たな合意が2015年のイラン核合意を超えることはない。

第七に、トランプ支持者の中ですら、この合意は非常に評判が悪い。

第八に、イランのホルムズ海峡「実質支配」は既成事実化しつつある。

第九に、仮に今海峡が完全に開かれても、マーケットの判断は以前には戻らない。

第十に、イスラエルがヒズボラに対する攻撃を止めることはない。

第十一に、米軍は以前から前方展開している部隊を撤退させることはない。

といったものである。

以上が筆者の頭の体操だが、これについては今週の産経新聞WorldWatchに詳しく書くつもりなので、同コラムを御一読願いたい。現時点でどのような交渉になるかは分からないが、いずれにせよ、米側の交渉レベルは極めて低く「素人」に近いのに対し、イラン側は「後出しジャンケンの名人」だから、結果は推して知るべし、である。

 

■欧米から見た今週の世界の動き 

続いては、いつもなら吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週も同研究員多忙のため、お休みさせて頂く。次に、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

6月22日 月曜日 EU・モルドバ首脳会議(ブラッセル)

6月23日 火曜日 天皇皇后両陛下、ベルギー公式訪問開始

世界経済フォーラム(夏のダボス会議)開催(大連)

メリーランド、ニューヨーク、ユタ各州で議会予備選挙

6月25日 木曜日 ウクライナ回復会議(ポーランド)

6月26日 金曜日 ボルトン元大統領補佐官、司法取引で有罪を認める

6月27日 土曜日 ルイジアナ州予備選挙決選投票

 

■米イランMOU交渉が残した歴史的教訓 

最後は最後はガザ・中東情勢だが、冒頭触れなかった点を付け加えよう。今回のMOU交渉を見ていて、その歴史的意義や教訓について、いくつか考えたことがある。例えば、

①イスラエルがアメリカを信じられなくなった時、次の対イラン戦争を単独でも起こす可能性がある。

②世界のエネルギー市場は不可逆的に変化してしまったのではないか。

③今回、最大の危機を脱した時、イランは核兵器製造を決意したのではないか。

④GCC諸国はこれまでの繁栄を享受できなくなり、停滞が始まるのではないか。

⑤中国とロシアは、中東での米国の失態により米国が被るコストの大きさを再確認し、ほくそ笑んでいるのではないか。

⑥これで米国が提供する安全保障の信頼が失われたという見方もあるが、それが直ちに日本含むアジアも同様だと断ずるのは如何なものか・・・。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

【よくある質問(FAQ)】

Q1. メモランダムオブアンダスタンディング(MOU、了解覚書)とは何か?
 A. 国家間や組織間で、合意事項の概要や意図を確認するために交わされる文書。正式な条約と異なり法的拘束力は限定的だが、本格的な合意に向けた前提となる。宮家氏は今回のトランプ・イラン合意を、了解(understanding)ではなく「誤解(misunderstanding)」覚書だと批判している。

Q2. ホルムズ海峡はなぜ重要なのか?
 A. ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ海峡で、世界の原油海上輸送量の約2割が通過する戦略的要衝。イランが封鎖や妨害を行えば、世界のエネルギー市場が直撃を受ける。今回のMOU交渉でも、海峡の「開放」が中心論点の一つとなった。

Q3. 2015年のイラン核合意(JCPOA)とは何か?
 A. 米英仏独中ロの6か国とイランの間で締結された、イランの核開発制限と引き換えに経済制裁を解除する包括的合意。2018年に第1次トランプ政権が離脱した。宮家氏は、今回の新たな合意がこの2015年合意の水準を超えることはないと指摘している。

Q4. GCC諸国とは何か?
 A. 湾岸協力会議(Gulf Cooperation Council)の加盟国を指す。サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタール、バーレーン、オマーンの6か国で構成される地域協力機構で、1981年に発足した。原油・天然ガスの輸出を経済の基盤とし、中東地域の安全保障・経済の中核を担う。

Q5. ヒズボラとは何か?
 A. レバノンを拠点とするシーア派の武装組織・政党。1982年のイスラエルによるレバノン侵攻を契機に結成され、イランからの支援を受けて軍事力を強化してきた。イスラエルとは長年にわたり敵対関係にあり、宮家氏は今回のMOUにかかわらず「イスラエルがヒズボラに対する攻撃を止めることはない」と指摘している。

 

(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)

 

シリーズ紹介・バックナンバー

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トップ写真:米イラン和平協議にて(左から)JDバンス米国副大統領、パキスタンのシェバズ・シャリフ首相、カタールのムハンマド・ビン・アブドゥルラフマン・ビン・ジャシム・アル・サーニ首相兼外務大臣(スイス、スタンスシュタット-6月21日)

出典:Nathan Howard-Pool/Getty Images




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