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スポーツ  投稿日:2026/6/21

「日本人は同じ顔」発言はなぜ炎上?オランダの人権感覚~日本経済をターンアラウンドする35


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【本稿のポイント】

・W杯日本対オランダ戦(6月15日、2-2)の解説で、元オランダ代表ファン・デル・ファールト氏が「日本人選手はみな同じ顔に見える」と発言し、世界的批判を受け謝罪した。

・民族を一括りにするステレオタイプであり、差別に厳しい公共放送での発言だった点が問題視された。オランダは憲法第1条で平等原則と差別禁止を定める。

・厳格なポリコレは本音抑圧の副作用も伴うが、背景には欧州に根深いアジア人差別の現実がある。

サッカーW杯のテレビ解説で、オランダの元代表選手が「日本人選手の顔は同じように見える」という趣旨の発言をし、世界的な批判を浴びた。目くじらを立てなくても、と感じる日本人も少なくないだろう。しかし本人は謝罪に追い込まれた。なぜか。この発言には差別的なニュアンスが含まれ、オランダの人権感覚からすれば明確に「NO」だからだ。NPO法人日本公共利益研究所代表の西村健氏が、オランダ・欧州の人権基準を読み解く。(Japan In-depth編集部) 

 

「(日本人は)同じ顔をしているから、彼もそう思ったのかもね」

(オランダ語:Ze lijken natuurlijk allemaal op elkaar, dus misschien dacht hij dat ook.)

サッカー・ワールドカップのテレビ解説でオランダの元代表選手の「日本人選手の顔は同じように見える」という趣旨の発言が世界的に批判を受けた。人間からみて外国人なんてそのようにみえるものだし、目くじらをたてなくても・・・と正直思う日本人も多いだろう。しかし、オランダ内外から批判を受け、本人が謝罪する結果となった。

なぜか。

この発言には差別的なニュアンスが含まれていて、オランダの人権感覚からしたら「NO」ということなのだ。人権感覚をそれだけ配慮しなければいけないのが、社会人として言論人としての責任なのだろう。

◆何が起きたのか?

この発言の当事者はオランダ代表で活躍した名選手、ラファエル・ファン・デル・ファールトさん、43歳。アムステルダム郊外のヘームスケルク出身でオランダのアヤックス、ドイツのハンブルガーSV、スペインのレアルマドリードやイングランドのトットナムという世界的強豪で活躍し、2010年のワールドカップの準優勝メンバーである。スーパースターだ。ハンブルガーSV時代は、元日本代表のFW高原直泰さんともチームメートでもあった。プレーに独創性があり、筆者は好きな選手でもあった。

ファン・デル・ファールトさんはオランダ公共放送局NOSの番組で、日本対オランダ戦を解説。発言はオランダの失点場面で生まれた。もう1人の解説者が失点場面について、オランダのDFファンデフェン選手がFW小川航基選手のマークを外してしまったと指摘。それに反応する形でファン・デル・ファールトさんは「日本人選手の顔は同じように見える」といった趣旨の発言をしたのだ。その直後に、冗談であるといったフォローを入れたが、差別的発言としてSNSやメディアで一気に拡散・批判を受けた。

終盤まで勝っていたオランダが日本に追いつかれたシーン、ファン・デル・ファールトさんの心の中には悔しいという強い感情があったのだろうと推察される。

◆問題になった理由

▲写真【出典】ワールドカップに挑む2014年ワールドカップでのオランダ代表、ファン・デル・ファールトさんは負傷のため代表に選出されず。筆者撮影

「日本人はみんな同じ顔をしている」という発言が問題になった理由は第一に、民族を一括りにして個性を否定する差別的なニュアンスを含んでいるジョークであること。長年繰り返されてきた典型的なステレオタイプ・偏見として評価される。また、特定の人種・民族・人間の外見・見た目を「見分けがつかない」「みんな同じ」と発言することは、「個人として見ない、ひとくくりにとして扱う」視線につながるとされるとの意見もある。

第二に、特定の人種や民族の外見を揶揄していたから。オランダ社会はマイノリティを重視する理念を持っているため、マイノリティへの発言については厳しい。第三に、メディア、特に公共放送での発言であること。そもそも公共放送や大手メディアでは、差別表現を避ける編集方針・倫理コードが存在する。欧州の感覚では、出演者にも「特定の人種・民族・国民をひとくくりにする言動を避ける」義務があるということだろう。

そうなると、イエローカードどころか、レッドカードなのだ。本人に侮辱や差別の意図はなかったとしても、だ。

◆オランダの「人権」レベル

オランダはそもそも商業・交易で栄えた。港町では開放的で、多くの人が移民してきて国家や社会が構成されてきた。こうした成り立ちもあり、寛容さ・個人の自由・多様性を重視するリベラルな社会でもある。個人の自律・多様性・マイノリティ保護を重視する「人権先進国」としての性格が強い。特に、憲法第1条で「オランダに居る人はすべて、平等な立場で平等に扱われなければならない」としていて、宗教・信条・政治的意見・人種・性別などに基づく差別を禁止する平等原則を明確に宣言している。

また、欧州ではEU法に基づいた行動計画・啓発キャンペーン・オンライン規制などで構成された政策が推進され、欧州の人種差別撲滅キャンペーンはかなり活発である。サッカーの試合などにおいても、反差別キャンペーンが行われ、ルールに違反した選手に対する罰則なども課されたりする。そうなると、公共放送のサッカー解説で、人種・民族に基づくステレオタイプを笑いのネタにすること自体が、現在の国際的な基準違反となっても仕方ないことだ。

◆サッカーは引き分けたが・・・

他人が本音レベルで思っていることを批判・非難・糾弾、そして法的に規制する取り組みが過度に行き過ぎると、その結果、みんなが本音を言わず、建前で話すようになり、負の感情は水面下で抑圧され続ける。そして、あるタイミングで爆発する可能性もあるかもしれないと筆者は考えている。政治的公正性、いわゆるポリコレ(ポリティカル・コレクトネス:Political Correctness)は正しい面もあるが、人間はおろかな動物でもある。強固な厳格なルールで規制しようとする欧州の人権政策を見ていると「本当にうまく成果を出せるのか」と疑問を感じることもある。

欧州の人種差別撲滅キャンペーンの厳格な取り組みの背景には、欧州での根深い人種差別の実態・現実があるのだろう。欧州ではアジア人への差別は日本人が考えている以上に繰り返されていて、多くの日本人サッカー選手も色々な目に遭ってきた。「文化的闘争」というくらいやらないといけないという共通認識があるのだろう。

サッカーはボール一つで多くの人が交流でき、相互に理解しあえるスポーツだ。人種差別や摩擦を解決できるその可能性がある。今回の騒動も多くの人にとって学習成果はあったはずだ。このワールドカップで似たような騒動が起きないことを期待する。

【よくある質問(FAQ)】

Q. ファン・デル・ファールトとはどんな選手か?
A. 元オランダ代表MF。アヤックス、ハンブルガーSV、レアル・マドリード、トッテナムで活躍した2010年W杯準優勝メンバーで、現在43歳。北中米W杯ではオランダ公共放送NOSの解説者を務めた。

Q. 「日本人はみな同じ顔」発言はいつ・どの試合で出たのか?
A. 2026年北中米W杯グループF・日本対オランダ戦(日本時間6月15日、米ダラス、2-2)の中継。後半終了間際に日本が同点に追いついた失点場面の解説中だった。

Q. 具体的に何と発言したのか?
A. DFファン・デ・フェンが小川航基のマークを外した点を説明する流れで「日本人選手はみな似た顔に見える」という趣旨を述べ、直後に「冗談だ」と釈明した。

Q. この発言はなぜ人種差別とされるのか?
A. 特定の民族の外見を「みな同じ」と一括りにする表現が、個人として見ない典型的なステレオタイプにあたるため。「東洋人はみな同じ顔」は長年アジア人への差別的言動の常套句とされてきた。

Q. なぜオランダでは差別発言への批判が厳しいのか?
A. オランダが憲法第1条で平等原則と差別禁止を定め、多様性・マイノリティ保護を重視する社会だから。差別表現を避ける編集倫理を持つ公共放送での発言だった点も批判を強めた。

Q. ファン・デル・ファールトは謝罪したのか?
A. 批判を受け、マネジメントを通じて声明を発表した。侮辱・差別の意図はなかったとしつつ、不快に感じた人がいることを理解しているとして謝罪した。

トップ写真: フィリップス・スタジアムで行われたオランダ対エクアドルの国際親善試合でのラファエル・ファン・デル・ファールト氏(2026年3月31日オランダのアイントホーフェン)出典:ANP/GettyImages




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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