「街の誇りを、世界へ」、サッカーW杯で見るシビックプライドの可能性~日本経済をターンアラウンドする34
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
■本稿のポイント
・日本代表選手の活躍の裏には、生まれ育った地域との深いつながりがある。
・「シビックプライド」という概念が、地域コミュニティの強化や転出抑制に効果があるとされている。
・選手が代表まで上り詰めたのは、地域社会の様々な支えがあったからこそである。
W杯開幕とともに、日本代表選手と出身地との結びつきが浮かび上がる。小川航基選手や堂安律選手の歩みは、地域社会が選手を支えた証である。シビックプライドという概念は、地域への誇りや愛着を指し、地域活性化や転出抑制に寄与する可能性がある。代表選手の躍進は本人の努力のみならず、仲間、指導者、学校、地域住民など多くの支えによって成り立ち、その活躍は関わった人々にとって「地域の誇り」そのものだと、NPO法人日本公共利益研究所代表の西村健氏が論じる。(Japan In-Depth編集部)
■街の誇りを、世界へ。
サッカーワールドカップが開幕。日本代表は競合オランダと引き分けた。優勝と言う目標に向けてさあ、いざという感じである。
様々な選手に様々なストーリーがある。街に生まれ、育ち、サッカーのスキルを磨き、選ばれるまで至った。幼少期から周りからみれば順風満帆にエリート街道を進んできた人、途中で挫折しつつも陰ながら努力を重ねて上り詰めた人、挫折を繰り返しそのたびごとに強い精神力で乗り越えた雑草魂の人などなど。住んだ街、育った街のかかわりも様々である。
鎌田大地選手のように中学入学時に覚悟を持って故郷であり「思い出の場所」の愛媛県伊予市西伊予を出る選手、久保建英選手のように川崎市麻生区西生田で暮らしていたもののバルセロナに転出した選手もいる。高校時代に県外留学する人もいるが、多くの選手にとって自分のルーツである街はそれぞれの心の支えになっているだろう。
そして大事なのは、代表選手と何らかの形でかかわりがあった人にとって見れば代表選手との出会いや思い出は「誇り」になることだ。
■シビックプライドの価値
シビックプライドとは何か。なんとなく知っている人も多いかもしれない。筆者は専門家だったりする。定義としては、自分が住んでいる地域やまちに対して、誇りや愛着を持ち、主体的に関わろうとする気持ちや態度のことをいう。誇りのような感情、愛着、そして行動意欲まで含む広い概念とされている。

【出典】筆者作成
人口減少・高齢化の中で、地域コミュニティの強化になるとしてその可能性が指摘されている。転出抑制に対しては一定の効果があるとされていて、例えば、シビックプライドが高い地域ほど「持続可能で魅力的」になりやすいと考えられている。
■FW小川選手の地元は?
オランダ戦での鎌田選手の同点ゴールを生んだ小川航基選手は横浜市都筑区出身。横浜でも日吉近くのエリアである横浜市立南山田小学校、横浜市立中川中学校を卒業している。サッカーは横浜港北FC、中学時代は大倉山にある大豆戸FCという街クラブで活動していた。本人は「でも、自らの実力がそこまでのレベルにないことは子どもながらに自覚していた」(横浜FCホームページ記事参考)と語る小川さん。地元の山田神社の階段を早朝からダッシュし続けてきたが、Jリーグのジュニアユースへの入団に失敗。その努力が実ったのは中学時代の頑張りであって、そこで一気に成長したと言われている。高校は名門の桐光学園サッカー部に入部して点取り屋として活躍。そこで一気に世代屈指の存在になり、世代別代表のエースに上り詰めた。大ケガを乗り越え、Jリーグチームを渡り歩き、苦闘しながら、現在はオランダのNECでプレーしている。
■堂安選手の地元は?
日本の10番、ゲームキャプテンを務めた堂安律選手は兵庫県尼崎市出身である。西宮SC⇒ガンバのジュニアユース、ユース、トップチームを経て欧州へ、現在はドイツのブンデスリーガのアイントラハト・フランクフルトに所属。彼は尼崎への思いをいたるところで発信し続ける。行きつけであり、筆者の師匠である勝谷誠彦さんも大好きだった「ホルモン鍋店「てっちゃん鍋やすもり」をyoutubeにて紹介したり、尼崎へのシビックプライドは強いものがある。

【出典】やすもり、筆者撮影
彼の兄、憂さんと練習した小田南公園でのプレーを私も見かけたことがある。そして、その兄とともにフットサルコートをJR尼崎駅近くに設立(Next10 Football labHP)など、地域貢献もしているのはさすがである。
堂安選手はメディアで地元への感謝を語ることも多い。最近ではindeedの広告にて「尼崎からの期待が、背中を押してくれたから」とメッセージを送っている。

■地域の誇りが・・・
有名人が出ると、たいてい「俺が育てた!」と言いたがる人がいる。正直それは選手に失礼だろう(笑)。選手が血のにじむような努力を頑張ったから代表選手まで上り詰めたのだ。しかし、サッカー選手になったのは選手自身の努力、家族のサポートはもちろんのことだが、その地域の人々が地域社会を支えていたこと、温かい目線や見守りがあったからというのもあるだろう。代表選手にとってもその街の数々の出会いがあり、その地域に暮らしてなかったら・・・・どうなったかわからないかもしれない。
①出会い:サッカーチームがあった
②少年団:一緒にサッカーをした仲間とサッカーを楽しめた、基礎を教え能力を見極め開花を手伝った指導者がいた
③サッカー協会:県域での試合や大会運営をしてくれる大人がいた
④学校:仲良くして、見守ってくれた友人がいた、サッカーエリートとして頑張っている選手をフォローしてくれた先生や関係者がいた
⑤商店・医療機関・行政機関:その家族の地域の暮らしや生活を支えた大人が仕事をしていた
1つでも欠けたら・・・と考えると、代表選手を輩出することはある意味「奇跡」でもある。代表選手の裏に、消えていった選手、諦めた選手もいる。しかし、選手1人では代表選手にはならないし、なれない。運と縁がつながって今があるのだろう。
そして、程度は様々だけど間接的に貢献した地域の人たちにとっては、代表選手は「地域の誇り」、そうシビックプライドでもある。さあ、共に戦おう!
■よくある質問(FAQ)
Q1. シビックプライドはいつ生まれた言葉なのか。
A. もともとはイギリスで生まれた概念で、都市が発展する中で住民が自分たちの街に誇りを持つようになったことがきっかけとされている。「シビック」は英語で「市民の」を意味する言葉で、行政や専門家だけでなく、住民一人ひとりの視点に重きを置いているのが特徴だ。
Q2. 郷土愛とは何が違うのか。
A. 郷土愛は「愛着」が中心だが、シビックプライドは愛着に加えて「自分も街づくりに関わろう」という前向きな姿勢まで含む点が特徴である。地元のイベントに参加したり、地元のお店をあえて選んで使ったりすることも、シビックプライドのひとつの形と言えるだろう。
Q3. 日本代表は今後どのような日程で試合を行うのか。
A. オランダ戦で勝ち点1を獲得した日本代表は、グループFで6月21日にチュニジア、6月26日にスウェーデンと対戦する予定である。この2試合の結果次第で、グループステージ突破の可能性が大きく変わってくる。
■シリーズ紹介
本稿は西村氏による「日本経済をターンアラウンドする」シリーズの一編です。
(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真)Netherlands v Japan: Group F – FIFA World Cup 2026
出典)Michael Steele/スタッフ/Getty Images
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。












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