女性天皇9割支持なのに議論が進まない理由——皇位継承の「本当の論点」
執筆者:安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)
■ 本稿のポイント
・現在国会で議論されているのは「皇族数の確保」の問題であり、女性天皇・女系天皇の是非はまだ別問題として切り分けられている——しかしこの「切り分け」自体が議論を複雑にしている。
・旧宮家の男系男子を養子として迎える案は、一般国民として生まれた人物を意図的に皇族とするものであり、憲法14条(法の下の平等)に抵触しうるとの指摘がある。
・女性皇族の配偶者・子どもを皇族としない場合、「皇族でないのに人権も制限される」という新たなグレーゾーンが生まれ、憲法秩序そのものを揺るがしかねないとの懸念がある。
岸田文雄政権以降、皇位継承の安定化は政治の「宿題」として先送りされ続けてきた。2026年現在、国会では二つの案——女性皇族の婚姻後の皇籍残留案と、旧宮家男系男子の養子案——が並行して議論されている。しかしその議論の質と深度において、国会と国民の間には大きな温度差がある。Japan In-depthの安倍宏行編集長と山尾志桜里氏が、皇統論議の「本当の論点」を整理した。(Japan In-depth編集部)
「皇族数の確保」と「女性・女系天皇」は別問題——本当に?
現在国会で議論されているのは、あくまで皇族の数をどう確保するかという問題だ。このまま推移すれば天皇を含む皇族そのものが消滅しかねない。大きく二案が取り沙汰されている。一つは女性皇族が結婚後も皇籍を離れず残る案、もう一つは旧宮家の男系男子を養子として迎える案だ。
政府・国会は「女性天皇・女系天皇の是非はその後に議論する別問題」と切り分けているが、山尾氏はこの整理に疑問を呈する。「切り分けられない問題を切り分けているから、かえって議論が複雑になっている」。女性皇族の子どもを皇族とするかどうかを先に決めれば、それは女系天皇への道を開くか閉じるかをすでに決めていることと同義だからだ。
「準皇族」という新たな矛盾
山尾氏が特に問題視するのが、女性皇族の配偶者と子どもを皇族としないという考え方だ。「妻は皇族だが、夫は一般国民」という家族が生まれる。その場合、夫は選挙に立候補できるのか、SNSで政治的発信ができるのか——事実上できない。しかし、それを禁じる法的根拠もない。
「皇族でないのに人権がないという、新しいカテゴリーを作ってしまう。憲法秩序そのものが揺らぐ」と山尾氏は指摘する。過去には「準皇族」案が浮上したこともあるが、同様の理由で退けられた経緯がある。「旦那さんも子どもも皇族になるべき。家族ならば家族として一体であるべきだ」というのが山尾氏の立場だ。
旧宮家案と憲法14条問題
もう一方の旧宮家案にも憲法上の難点がある。対象となるのは、戦後に皇籍を離脱した旧宮家の子孫で、今日まで一般国民として生まれ育ってきた人々だ。
2021年の政府有識者会議のヒアリングで、東京大学の憲法学者・宍戸常寿氏は、養子となれる資格を「皇統に属する男系男子」に限ることと、「門地による差別の禁止」(憲法14条)との関係を、整理すべき論点の一つとして挙げた。番組で山尾氏もこの点に触れ、「門地(出自)による差別として14条違反に当たりうる」と同意している。
「元々皇族として生まれた方ですらない、その孫で一般国民として戦後に生まれた方を意図的に皇族にするのは、新しい身分を作ることに見られてもおかしくない」と山尾氏は述べ、養子案そのものが「針に糸を通すような」実現可能性の低い仕組みである点にも疑問を呈した。
国民は「女性天皇9割支持」——しかし国会との温度差は歴然
共同通信の2024年4月の世論調査では女性天皇支持が9割近くに上り、読売新聞の翌年の調査でも69%が支持している。一方、国会内では「男系こそ伝統」との考えを持つ議員が依然として多数を占める。
この乖離について山尾氏は「国民統合の象徴の問題は、最終的に国民がどう感じるかが一番大事だ」と述べる。世論調査の数字が男系維持を支持していない以上、その選択肢を先回りして潰すべきではないという立場だ。
ただし、山尾氏は「愛子天皇論」を個人名で唱えることには慎重だ。「制度論は制度論で議論すべきで、誰が素晴らしいからこの人に、という議論は長続きしない」と語り、特定の個人名で皇室論を語ることは、かえって皇室を傷つけかねないと指摘する。
「喧嘩をやめよう」——議論に必要な共通基盤
対談の通奏低音として流れていたのは、対立の作法についての問いかけだった。「国旗の問題でも皇統の問題でも、意見を持っている人は関心を持っているということ。それだけで十分に大きな共通基盤だ」と山尾氏は言う。
相手を「皇室破壊論者」「反日」とレッテル貼りすることなく、2005年の小泉政権下の有識者会議報告書のような積み重ねを踏まえて議論することが、いま求められている。
👉 対談の全編動画はこちら
「日の丸を壊したら罪? 女性天皇はなぜ進まない?山尾志桜里氏と徹底討論」https://www.youtube.com/watch?v=uKDvkuCZTPY
本編動画で語られた他の主な論点:
・刑事罰ではなく「努力義務」という代案(9分~、14分~)ーー刑事罰は表現の自由・罪刑法定主義の観点で行きすぎであり、「努力義務」として法制化するのが精一杯のバランスだとする主張
・立証が容易すぎる危うさ(11分~)ーー「不快・嫌悪」を処罰要件にすると、世間一般の漠然とした感情を証拠に特定個人を刑務所に送ることになるという、元検事ならではの指摘
・保護法益(15分~)ーー法案の根幹である「何を守る法律か」について、目に見えない世間の感情を刑罰で守るのは先進国らしくなく、守るべきは憲法秩序だとする、議論の土俵そのものを問い直す論点
■ よくある質問(FAQ)
Q. いま国会で議論されているのは女性天皇の是非なのか?
A. 違います。現在の議論はあくまで皇族の数を確保するための仕組みづくりです。女性天皇・女系天皇を認めるかどうかは「別問題」として切り分けられていますが、女性皇族の子どもの皇籍をどうするかという議論は、事実上この問題と直結しています。
Q. 旧宮家の男系男子を養子にする案の何が問題なのか?
A. 対象者は一般国民として生まれ育った人々です。皇族として生まれた方でもその子でもなく、600年以上遡ってはじめて血縁が繋がる人物を、国家の意思で皇族とすることは、出自(門地)による新たな身分区別を生むとして憲法14条(法の下の平等)違反の疑いが指摘されています。
Q. 女性皇族の配偶者を皇族にしない場合、なぜ問題なのか?
A. 夫は一般国民のままとなるため、事実上の人権制限(立候補・政治的発言など)を法的根拠なく受けることになります。これは「皇族でないのに人権もない」という新たなグレーゾーンを生み出し、憲法秩序そのものの揺らぎにつながると懸念されます。
Q. なぜ女性天皇支持率が高いのに国会では議論が進まないのか?
A. 国会内では男系維持を伝統と考える議員の影響力が依然強く、国民の多数意見との間に大きな乖離があります。山尾氏はこのギャップを認めたうえで、「国民が多数支持している選択肢を先回りして排除する議論はすべきでない」と主張しています。
Q. 2005年の有識者会議報告書とは何か?
A. 小泉政権下で設置された有識者会議がまとめたもので、論理的に考えれば女性天皇・女系天皇を認めることが継承の安定に資するとの結論を出しました。悠仁親王殿下のご誕生により議論が棚上げされましたが、報告書そのものは現在も政府の公式文書として残っています。
関連リンク(一次情報)
▶ 制度|安定的な皇位継承の確保に関する有識者会議報告書(2021年12月/国会提出版)|衆議院
▶ 2005年報告書|皇室典範に関する有識者会議報告書(2005年11月・政府/内閣官房)|国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_3531374_po_houkoku.pdf
▶ 有識者ヒアリングで表明された意見について(2021年・第8回 資料1/宍戸氏らの発言を収録)|内閣官房
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/taii_tokurei/dai8/siryou1.pdf




























