緊急事態条項、なぜ衆参で「真逆」なのか――立憲・小西洋之氏に聞く改憲の分水嶺
安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)
【本稿のポイント】
・緊急事態条項をめぐり、任期延長を進める衆議院と、緊急集会の機能強化を目指す参議院は「真逆」の方向を向いている
・小西洋之氏は、緊急時に参議院・衆議院・内閣が互いに権力を抑制し合う現行の緊急集会を「よくできた制度」と評価し、国会法改正による機能強化を提案する
・緊急事態下の国会開会の担保をめぐり、「憲法に書くべき」とする山尾志桜里氏と、「臨時国会の召集要求で足りる」とする小西氏の論点が分かれた
緊急事態条項の議論は、いま衆議院で先行している。だが立憲民主党の小西洋之・憲法調査会長が描いたのは、衆参で向きがまったく逆になる構図だった。参議院の緊急集会を「使えない」とみて議員任期の延長を目指す衆議院に対し、参議院はその緊急集会を強化する側に立つ――。Japan In-depthチャンネル「2026・改憲の分水嶺」シリーズ第8回。小西氏は、参議院憲法審査会を「戦略的に動かす」という言葉で衆院の改憲論にどう向き合うのかを語り、緊急事態下で国会の開会を誰がどう担保するのかをめぐって、編集長安倍と弁護士・山尾志桜里氏が議論した。(Japan In-Depth編集部)
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■なぜ参議院は「衆議院の改憲を止める」方向に動くのか
緊急事態条項をめぐる与野党の議論は、いま衆議院で先行している。だが小西氏が強調したのは、衆参で方向がまったく逆を向く構図だった。
衆議院側は、参議院の緊急集会が「使い物にならない」ことを前提に、議員任期の延長を可能にする改憲を進めようとしている。これに対し、参議院は緊急集会そのものを強化する側に立つ。小西氏は両者の関係をこう表現した。
「衆議院は緊急集会が使えなくて任期延長改憲と言って、参議院は真逆の議論をしていますよ」
その参議院側の「戦略」の一つが、6月10日の憲法審査会だった。日本を代表する憲法学者である長谷部恭男氏と只野雅人氏の二人を招き、5月14日に衆議院憲法審査会で示された緊急事態条項のイメージ案を批判させた、というのが小西氏の説明である。なぜ反対派の学者だけだったのか――番組でこの点を問われ、小西氏は明言した。
「せっかくなので申し上げると、我々の会派が中心になって推薦させていただきました」
通常であれば賛成・反対双方の参考人を呼ぶのが「よくある運び」だ。そうならなかった理由について、小西氏は、緊急集会に賛成の立場から専門的な見解を述べる学者を呼ぶ狙いがあったと述べたうえで、こう続けた。
「(賛成派の学者を)呼んでいただくと議論が混乱するだけなので、かつそういう方に対して我々は厳しい質問をすることになる」
注目すべきは、この構図の背景に参議院自民党の感覚があると小西氏が指摘した点だ。参議院側には、緊急集会は「使えない」とする衆議院側の主張そのものがおかしい、という問題意識があり、緊急集会について公正な専門的見解を述べる学者を呼ぼうという流れが党派を超えてあった――そう小西氏は読み解いた。
■緊急集会の「機能強化」とは何を指すのか
では、小西氏の言う「機能強化」とは何か。前提として、現行制度上、緊急集会は内閣しか招集を求められず、扱える議案も内閣しか提出できない。小西氏はこの設計を、むしろ「よくできた考え方」だと評価する。
「緊急時というのは権力がもう好き勝手に乱用するんですね。それが人類の教訓なので(中略)参議院が好き勝手なことをやり始めるととんでもないことになるので、参議院と内閣の権力の均衡と抑制を効かせているわけです」
参議院・衆議院・内閣の三者が、非常事態でも誰も権力を乱用しないよう抑制し合う――その近代立憲主義の設計を、小西氏は壊すべきではないと考える。
そのうえで提案するのが、緊急集会の運用を国会法改正で強める案だ。緊急集会の開会中、議案について参議院の側からも内閣に働きかけられるようにする。小西氏はこう述べた。
「緊急集会を開いている時の議案について、参議院からも内閣に提案する。内閣がもたもたしているけれど、こういう議案を緊急でやらなきゃダメなんじゃないかと。内閣、早くこの議案を緊急に出せと。出さないんだったらその理由をちゃんと紙で出せ、という国会法の改正を、立憲は2年か3年前から憲法審査会の中で提案しているんですね」
つまり、憲法本体に手を入れず、法律レベルで緊急時の国会の監視機能を底上げするというのが、小西氏が示した道筋である。
■山尾氏との論点はどこでズレたのか
この回でシリーズらしい対立軸として浮かび上がったのが、コメンテーターの山尾志桜里氏との論点のズレだった。
山尾氏が問題視したのは、緊急事態下で国会の開会が担保されていない現状である。閉じている国会は開かれ、開いている国会は解散されない――そうしたルールが憲法にも法律にもない、と山尾氏は指摘し、内閣が認定した非常事態には国会が自動的に開会される仕組みを憲法に書き込むべきだと主張した。世界の緊急事態条項の大半に、国会のチェック機能を維持する規定が含まれている、というのが山尾氏の論拠である。
小西氏は、担保の必要性そのものには同意する。
「国民にとって国会を開くべき時にちゃんと開かなきゃいけないというのは、制度として担保しなきゃいけないと思う」
だが、手段が違う。小西氏が挙げるのは、憲法53条にある臨時国会の召集要求だ。自身がこの召集義務違反を「憲法違反だ」として最高裁で争った経緯にも触れたうえで、両者の違いをこう整理した。
「山尾さんがおっしゃっているのは、内閣が認定した非常事態には国会が自動的に必ず開会される仕組みを法制度で作るべきだ、ということ。我々が言っているのは、臨時国会の召集要求という仕組みがあるわけだから、それがちゃんと担保できるような法律を作れば、国民や国会が必要とする時は国会が召集・開会される仕組みになる、ということ。目指しているものは同じで、やろうとしている手段が違うだけ」
さらに小西氏は、今の政権下で新たな憲法上の仕組みを作ることへの強い警戒を口にした。自民党政権が臨時国会の召集要求を「数えきれないほど」無視し、自身が裁判で訴えたものだけでも4つか5つの召集義務違反があり、解散権の乱用も重ねてきた、と挙げたうえでこう述べた。
「そういう政治権力のもとで、緊急事態における国会の開会の法制度を作っても決していい制度にはならない。逆に」
だからこそ小西氏は、山尾氏の主張を「一つの筋道としていい」と認めつつも、具体的な制度論に踏み込んで議論したいと応じた。
「私が心配しているのは、今仕掛けるとどうせ悪い仕組みにされちゃうと思う」
両者は、自民・維新・公明・国民が示した緊急事態条項のイメージ案に山尾氏の言う自動開会の仕組みが含まれているかどうかでも見解が分かれ、それぞれ確認したうえで改めて議論することを約した。緊急事態における国会の機能をどう守るのか。同じゴールを見据えながら、憲法か法律かで分かれる二人の論争は、次回に持ち越された。
■本稿で触れられなかった主な論点
・集団的自衛権は違憲、安保法制は廃止可能との主張――小西氏は昭和47年政府見解の解釈をめぐり、集団的自衛権を合憲とする政府の立論を「出鱈目の憲法違反」と批判。その廃止は法律改正だけで可能であり、9条改正は不要だと述べた。
・9条改正への反対と「9条の2つの力」論――政治家が起こす戦争から国民・自衛官を守る力と、侵略時の専守防衛の力。小西氏はこの2つを根拠に、自民の自衛隊明記・維新の2項削除いずれにも反対の立場を示した。
・立憲独自の安保政策を秋口に公表へ――小西氏は安全保障調査会長として、自民の3文書改定を待たず、立憲としての国防政策を秋口にまとめ公表する意向を明らかにした。
【よくある質問(FAQ)】
Q.参議院の緊急集会とは何ですか?
A.衆議院の解散中に緊急の必要が生じた場合、内閣の求めに応じて参議院が国会の権能を暫定的に代行する制度です。日本国憲法54条2項・3項に定めがあり、ここで採られた措置は臨時のもので、次の国会開会後10日以内に衆議院の同意がなければ将来に向かって効力を失います。
Q.緊急集会は誰が招集できますか?
A.内閣のみが集会を求めることができます。参議院が自らの判断で開くことはできず、扱える議案も内閣が提出するものに限られます。本記事で小西氏は、この設計を内閣と参議院の権力を均衡・抑制させる「よくできた考え方」と評価しています。
Q.緊急事態条項とは何ですか?
A.大規模災害や武力攻撃などの非常時に、国家機関の権限を一時的に強化したり、国民の権利を制限したりすることを定める憲法上の規定の総称です。日本国憲法には包括的な緊急事態条項はなく、その創設の是非が改憲論議の主要な論点の一つとなっています。各党が示している具体案の内容は協議の途上にあります。
Q.憲法53条の臨時国会召集要求とは何ですか?
A.いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は臨時国会の召集を決定しなければならない、と定めた規定です。本記事で小西氏は、緊急時に国会の開会を担保する手段として、憲法改正ではなくこの召集要求を実効化する法律を整えるべきだと主張しています。
関連リンク
▼本日の委員会・調査会等(令和8年6月10日 憲法審査会 参考人質疑:長谷部恭男・只野雅人両参考人)(参議院)
▼日本国憲法(第53条 臨時会の召集、第54条 緊急集会)(e-Gov法令検索)
▼「参議院の緊急集会」に関する資料(衆憲資第102号、令和5年5月)(衆議院憲法審査会事務局)
▼「参議院の緊急集会」の射程に関する資料(令和7年3月27日)(衆議院法制局・衆議院憲法審査会事務局)
写真)立憲民主党小西洋之参議院議員、弁護士・山尾志桜里氏
ⓒJapan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。












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