監修のクオリティが明暗をわけた〜日テレ系『明日、ママがいない』とフジ系『僕のいた時間』の違い
Japan In-Depth編集長
安倍宏行(ジャーナリスト)
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水曜夜10時のドラマ帯を巡っていろいろ喧しい論争が起きている。日本テレビ系列の『明日、ママがいない』(主演・芦田愛菜)とフジテレビ系列の『僕のいた時間』(主演・三浦春馬)がそれだ。
『明日、ママがいない』は、児童養護施設関係者の人権を侵害しているとして、親が育てられない子供を匿名で受け入れる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を設置する慈恵病院(熊本市)が既に、放送倫理・番組向上機構(BPO)放送人権委員会に審議を求める申立書を送付するなど、番組中止を求める動きが継続している。
第3話以降、提供スポンサー8社のCMが消え、ACジャパンのCMや番宣だけが流されており、視聴率は初回から14.0%→13.5%→15.0%→13.1%→11.6%→11.5%と推移している。
一方の『僕のいた時間』は、難病とされるALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した若い男性の葛藤や恋愛を描いているが、患者団体などから抗議されたという話は聞かない。この差はどこから来ているのか?
番組プロデューサー、フジテレビ編成制作局ドラマ制作部・中野利幸氏によると、「日本ALS協会に企画段階から毎回相談し、同協会顧問で都立神経病院元院長林秀明医師監修の下、症状や、患者と医者のやりとりなどデリケートな部分を見てもらいながら台本を作っている」という。また、患者の自宅も訪問し、話を聞くという徹底ぶりだ。
視聴率は、11.2%→9.4%→9.4%→8.5%→10.4%→9.2%→9.2%、と『明日ママ』のように下がり続けてはいない。
『明日ママ』は、前述の慈恵病院や児童養護施設を束ねる全国児童養護施設協議会に事前に取材をし、番組の意図の説明や理解を求めることをしていなかったために、猛抗議を受けることになった。監修に対する姿勢の違いが明暗を分けた格好だ。
テレビに対する社会の見方は年々厳しくなっている。フィクションだから、といったテレビ局側の論理はもはや通用しない。だが、制作者は抗議を受けたからといって委縮してはならない。本当に番組が伝えたいことは何なのかを突き詰め、どうしたら社会にそれを伝えることができるのか。考えぬいた末に作り上げた番組なら、批判を乗り越え賞賛を得るであろう。
「リアルな取材に基づいたものは共感を呼ぶ。(中野プロデューサー)」
という言葉が重く響いた。
【参考】
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