[宮家邦彦]外交・安保カレンダー(2014年2月24日-3月2日)
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
今週のハイライトは何といってもウクライナだろう。
ウクライナでは、2004年のいわゆるオレンジ革命以来、不安定な状態が続いている。EU加盟を志向する同国中部・西部とロシア志向の強い南東部で、国家の方向性に関する国論が事実上二分されており、両者間で妥協成立の可能性がほとんどないからだ。
2004年末、混乱の中で親欧米派のユシチェンコが大統領に選出されたが、2010年の大統領選では逆にヤヌコビッチが大統領に返り咲き、爾来ウクライナでは親ロシア的政策が続いた。しかし、昨年11月ヤヌコビッチが欧州連合(EU)加盟の前提となる「連合協定」の調印を見送ったことをきっかけに、ウクライナ国内で再び騒乱が始まった。
2月22日にはヤヌコビッチがキエフを追われ、元首相のティモシェンコが釈放された。更に24日には、ウクライナ議会がヤヌコビッチ大統領を解任し、議会の議長を大統領代行に選出したという。一見、親欧米派が勝利したようにも見えるが、ロシアが巻き返しを図る可能性も十分あるので、ウクライナがこのまま安定していくとは考えにくい。
そもそもウクライナの現行憲法では、大統領は弾劾または病気以外では辞任しない限り失職しない。弾劾手続きには時間がかかるので、議会側は今回一気に大統領解任を決議したようだ。しかし、議会による大統領解任そのものは憲法上の根拠がなく、解任自体が違憲となる可能性も十分あるという。
来年5月25日には大統領選挙が予定されているが、ウクライナ国内の親ロシア派、親欧米派に加えEU、ロシア、米国という5つの主要プレーヤーは、それぞれ、どのような思惑の下で如何なる行動をとるだろうか。いずれにせよ、事態が安定するまでにはかなりの紆余曲折があるだろう。
例えば、万一、ロシアが軍事介入すれば、EUも親欧米派に何らかの支援をせざるを得ない。そうなれば最悪の場合、ウクライナで内戦が始まり、国土が二分される可能性すらある。その際米国は介入するのか。オバマ政権はウクライナを米国の戦略的利益と考えるだろうか。それともシリアと同様、不介入主義を貫くのだろうか。
今後数週間以内にオバマ政権の対欧州政策が再びテストされる可能性がある。米国にとっては介入しても、しなくても、いばらの道が待っている。ロシアがウクライナを易々と手放す可能性は限りなくゼロに近いと思うからだ。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
【あわせて読みたい】
- 都知事選で『原発』を語るなら、都民の電気料金負担の軽減を主張すべきだ(石川和男・NPO法人社会保障経済研究所理事長)
- 中国経済は今、どれくらい“ヤバい”のか〜中国という巨人が落ちれば、最大の余波を受ける日本(藤田正美・元ニューズウィーク日本版編集長)
- どうも気になるオバマ政権の対日防衛政策〜いつまでもアメリカが守ってくれると思うな(古森義久・ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
- 駐米大使が中国の日本非難に対してワシントン・ポスト紙で反論〜靖国論争を機に日本外務省の消極体質に変容の兆し(古森義久・ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
- ユーロ圏の根っこにある矛盾と問題〜ユーロ通貨が統一されているのに、各国の経済格差を調整する手段がない(藤田正美・元ニューズウィーク日本版編集長)