勢いづく白人至上主義 トランプ批判は的外れ
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
【まとめ】
・米バージア州シャーロッツビルで8月12日白人至上主義者と、それに抗議する人々が衝突、死者が出た。
・トランプ大統領が白人至上主義者を名指しで非難しなかったことで米国中から批判高まる。
・しかし、民主党政権下でも黒人の権利は蹂躙されてきた。白人至上主義は米国のDNAだ。
米バージニア州シャーロッツビル(Charlottesville)(図1)で白人至上主義者と、それに抗議する人々が衝突し死者が出た事件(写真1)を受けて、トランプ米大統領が騒動を起こした白人至上主義者を名指しで非難しなかったことに、米国中から強い非難が集まっている。(写真2)
図1)シャーロッツビル ©Google Map
写真1)白人至上主義者に抗議する人々の集団に突っ込み人をはねる車 @DailyProgress
同Tweet 「当局によると車にはねられ亡くなった女性は、ヘザー・ヘイヤーさん(32)Heather Heyer, 32
#Charlottesville officials have identified Heather Heyer, 32, as the victim in yesterday’s crash at 4th Streethttps://t.co/ggTU7jWhne
— The Daily Progress (@DailyProgress) 2017年8月13日
写真2)シャーロッツビルの事件について会見するトランプ大統領
国家の元首として、また国民の思考や言動に強い影響を与え得る立場の指導者として毅然とした態度を示さなかったことは、白人至上主義者への強い許容のメッセージとなり、米国の人種間分裂とお互いへの憎悪や敵意をさらに煽ることになるというのが、トランプ批判の核心である。
正鵠を得た指摘だ。運用上は黒人に圧倒的に不利な体制の下、トランプ大統領は、特権を与えられた白人たちが、その被害者たちに敵意を示すことを事実上擁護している。そうすることで、白人至上主義者だけでなく、彼らに抗議する者たちも同罪だと示唆し、白人たちに事実上の無罪と免罪を宣言しているのである。国のリーダーとして許されないことだ。(参考:トランプ大統領のTweet)
8月12日トランプ大統領のTweet
「今日、亡くなられた女性とその家族に哀悼の意を表します。シャーロッツビルで怪我をされた皆さん、お大事に。とても悲しい。」
Condolences to the family of the young woman killed today, and best regards to all of those injured, in Charlottesville, Virginia. So sad!
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2017年8月12日
だが本当の問題は、こうした非難をトランプ大統領に向けるリベラルな民主党支持者のほとんどが、歴代民主党大統領がトランプ大統領と同じように、白人の黒人に対する暴力や抑圧を許容して、黒人の利益を決定的に損ねてきたことを語らず、非難もしないことだ。
好例が米国初の「黒人」大統領、バラク・オバマ氏(写真3)である。オバマ前大統領の8年の任期中、米警察による丸腰で往々にして無実の黒人が、まるで動物のように「即時処刑」スタイルで射殺され、警察・検察・司法がグルになってそのような無法警察を免罪しても、「忍耐が必要だ」「和解が必要だ」「理解し合うことが必要だ」などと述べるばかりだった。
出典)Official White House Photo by Pete Souza
オバマ大統領や、黒人のロレッタ・リンチ前司法長官(写真4)などは、名指しで警察・検察・司法を強く非難することはなかった。そうすることで事実上、丸腰で殺されるような罪を犯していない黒人の警察による即時処刑を許容・奨励したのだ。
写真4)ロレッタ・リンチ(Loretta Lynch)前米司法長官
出典)United States Department of Justice
それどころか、同性愛者が死を伴わない「差別」を受けているとして、まるで天地がひっくり返ったように騒ぎ立てた。同性愛者や女性の権利を守るためには、どんな犠牲も厭わなかった。そうして、黒人の苦しみと被害を置き去りにしてきたのである。
オバマ前大統領に代表される民主党大統領は、そうした意味で、白人至上主義者に何のアクションもとらないトランプ大統領と「同じ穴の狢(むじな)」であり、共同正犯なのだ。トランプ大統領は人種政策の本質において「オバマ2.0」に過ぎない。オバマ氏も、トランプ氏も、結果として、「黒人の命こそ大事だ」ではなく、「白人の命こそ大事」なのだから。
バージニア州シャーロッツビルでの騒擾(そうじょう)を受けて、全米各地に人種衝突が拡大していくことが予想される。その時の警察の白人至上主義者と黒人抗議者への対応の違いが、際立っていくだろう。
シャーロッツビルでは白人至上主義者に対して、警察は特にアクションを起こさなかった。推定無罪で傍観していたのである。これが黒人抗議者の集まりとなると、SNS分析や顔認識AI(人工知能)やドローン、さらには軍隊並みの武装をした部隊を投入する強硬姿勢が採られることは、過去の事例から明らかだ。黒人は「暴動」や「略奪」を起こす潜在的犯罪者として、推定有罪にされるからだ。
それは、民主党政権下でも共和党政権下でも変わることのない、米国のDNAなのである。
(この記事には複数の写真が含まれています。サイトによって全て見れない場合は、 Japan In-depth にて記事をお読みください)
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この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト
京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。