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.国際  投稿日:2018/5/5

北朝鮮の軍事脅威 在韓米軍司令官報告 その3


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・ブルックス在韓米軍司令官が米上院軍事委員会公聴会で報告。

・国際的な圧力は南北朝鮮間の和解の兆しからみると一定の効果を発揮してきた。

・北朝鮮の軍事脅威の実態はなお全く変わっていない。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39826でお読み下さい。】

 

ビンセント・ブルックス在韓米軍司令官のアメリカ議会上院軍事委員会の公聴会での報告をさらに紹介する。この回で終わりである。なおブルックス米陸軍大将は韓国駐留の米軍のトップであるだけでなく、同時に朝鮮国連軍司令部米韓連合司令部の司令官をも兼ねている。

その証言で注目すべきなのは朝鮮半島ではなお北朝鮮の多様な軍事力拡大が続き、金正恩政権はその軍事力を縮小へと動かす措置をとったことは一切、うかがわれない点である。以下はそのブルックス司令官の報告である。

 

【北朝鮮への国際圧力】

北朝鮮が周辺各国を不安定にする行動パターンを続けることに対して、直接の影響を受ける諸国の間で、さらにはより広範な国際社会において、懸念が深まった。2017年には特に国連の安全保障理事会が北朝鮮を孤立させる努力の主導権を発揮した。

国連安保理は北朝鮮の無法な核兵器と弾道ミサイルの実験を糾弾し、国際社会の意思への一貫した反抗、そして国際法の違反を非難して、安保理決議の2345、2356、2371、2397などを採択した。こうした決議によって安保理は金正恩政権へのさらなる制裁を加えたのだった。国連制裁の完全で厳重な履行は北朝鮮に対して、より大きな圧力をかけることになった。

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▲写真 北朝鮮制裁決議を採択する国連安全保障理事会 2017年3月23日 UN Photo/Manuel Elias

 

【北朝鮮の挑発の中断】

2017年は北朝鮮の挑発行動の73日間に及ぶ中断で年末を迎えた。ただしその中断期間は11月29日の弾道ミサイル打ち上げが例外だった。この打ち上げではミサイルは北朝鮮のそれまでの実験では最も高い高度と最も長い飛行時間を記録した。この時点から2018年3月といういまの時点まで、北朝鮮の挑発行動の中止はなお続いている。この事実は2017年全体の実験の急速なペースからみると注視に値する。

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▲写真 火星15号 2017年11月29日発射 Missile Defense Advocacy Alliance

 

【圧力行使の効果】

北朝鮮に対する焦点をしぼった国際的な圧力の着実な行使は最近の南北朝鮮の間の和解の兆しからみると、一定の効果を発揮してきたようである。北朝鮮と韓国は韓国が主催した平昌冬季オリンピックを舞台にスポーツ競技の交流だけでなく文化交流までを求めた。

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▲写真 平昌オリンピック開会式 2018年3月 Photo by Kim Youngjoon

そのうえに北朝鮮と韓国は相互間の緊急用ホットラインを復活させて軍事的な関与を進めることまで合意した。朝鮮半島の緊張を緩和し、南北関係を改善するための政府間の高レベルでの会合を開くことでも、双方は合意した。アメリカとしてはこうした最近の展開を注意深く観察し、同盟相手の韓国との緊密な調整を図ることを続けている。

韓国政府は北朝鮮を非核化という方向に向けて動かすためには圧力に加えて、対話も必要だと信じるにいたったのだという。私自身が韓国政府高官たちと頻繁に接触してみて、この点は明確となった。平昌オリンピック期間中、韓国側は北朝鮮が特別使節やスポーツの代表を同オリンピックに送りこんでくることに対応するだろう。ただし韓国側は北朝鮮の核兵器開発に対して、米韓合同の「完全で検証可能、かつ不可逆的な北朝鮮の非核化」という要求を伝えていくという。

以上がブルックス在韓米軍司令官の報告のすべてだった。その報告から明確になるのは北朝鮮の軍事脅威の実態はなおまったく変わっていないという点である。

(このシリーズ了。その1その2。全3回)

 トップ画像:米ペンス副大統領とビンセント・ブルックス在韓米軍司令官 板門店にて 2017年4月17日 U.S. Department of Defense, White House photo by D. Myles Cullen


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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