.国際  投稿日:2018/3/30

金正恩、秘密訪中の真意とは 

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森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

 

【まとめ】

北朝鮮金正恩労働党委員長が訪中し、習近平国家主席と会談

米・戦略国際問題研究所が金正恩電撃訪中について報告書を発表。

ジョン・ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官就任は米朝首脳会談の成功の見通しを複雑にするだろう。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=39246 で記事をお読みください。】 

 

北朝鮮の金正恩労働党委員長が夫人とともに北京をひそかに訪れていたことが全世界を揺さぶった。3月25日から28日まで中国の首都の北京を訪問した金委員長は中国の習近平国家主席とも会談し、歓迎を受けたという。

 

北朝鮮といえば、いまや乱暴無法な核兵器開発を推し進め、アメリカはじめ国際社会全体から糾弾の的となった問題国家である。そのカルト的な独裁者が初めて外国を訪れ、中国首脳との間で広範なテーマを話しあったというのだ。

 

 金氏が外国を訪れるのは2011年12月に北朝鮮の最高指導者となってから初めてだった。中国側は習近平政権下、北朝鮮への国連の経済制裁にも同調し、北との関係はすっかり冷却化したとされる時期だったのに、金氏を歓迎する姿勢をみせた。

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写真)金正恩労働党委員長夫妻と習近平国家主席夫妻
出典)中華人民共和国人民中央政府

 

 この金氏の訪問がアメリカのトランプ大統領との間で合意された米朝首脳会談の予定とかかわりがあることは、まちがいない。その前には北朝鮮と韓国との南北首脳会談が開催される。

 

 さてこうした複雑でダイナミックな動きをどう解釈すればよいのか。

 

ワシントンでの北朝鮮研究では定評のある戦略国際問題研究所(CSISが3月28日、金正恩氏の電撃的な中国訪問と、北京での金氏と習近平主席との中朝首脳会談の意味ついての見解をまとめた報告書を発表した。

 

 この報告書の執筆にあたったのはワシントンでの朝鮮問題の権威とされるビクター・チャ氏(元国家安全保障会議アジア上級部長)とスー・ミ・テリー氏(元CIA朝鮮問題専門官)の2人である。

同報告の要旨は以下のようだった。:

 

 ・金氏の訪中はまず中国側のこれまでの北朝鮮との対話なし、距  離をおく政策から和解の政策へのシフトを意味する。このシフ  トはそれまでの中国側の対北朝鮮政策が前向きな結果を生み出  せないことへの不満が動機となったと同時に、近く予測される  朝鮮半島の南北首脳会談、そしてアメリカとの米朝首脳会談へ  の展望によって促されたとみられる。

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写真)両国首脳会談
出典)中華人民共和国人民中央政府

 

 ・この金氏の訪中による中朝首脳会談は最小限でみる限り、南   北、米朝という二つの首脳会談を前にしての北朝鮮と中国との  政策調整とみなされる。習氏は中国がこの北朝鮮をめぐる新た  な動きに取り残されたままという状態を欲していない。また中  国がなにに対して支援し、なにを支援しないかを両会談の事前  に、北朝鮮に対して明示したかったのだろう。   

 

  ・最大限に考える場合、中国は北朝鮮への一定の援助を再開する  かもしれない。ただし中国側は平昌オリンピック後に生まれた  微妙な外交状況を一気に乱すような挑発的な行動を北朝鮮がと  らないことを前提として求めるだろう。その際、国連安保理の  経済制裁案を中国がどこまで履行するかという問題が大きく浮  かびあがる。

 

 ・金正恩氏にとっては今回の動きは米朝首脳会談がたとえ失敗に  終わっても、北朝鮮はなお中国に依存することができるという  保険の保証を得たといえるかもしれない。

 

  ・金氏は外国に出ることをそれほどには嫌っていないということかもしれない。金正恩氏が自国のイメージを変えて、「普通の  国」にしたいと願うようになったこともありうる。金氏が妻の李雪主氏や自国政府の高官たちとこうして外国へ旅行するとい  うことは、きわめて異例であり、金正恩氏自身が世界での舞台で自国のイメージを格段によくしようと願うにいたったこともありうる。

 

 ・習近平主席が金正恩委員長を自分と同等に扱ったことは北朝鮮が核兵器を利用して金委員長や国家としての北の地位を国際舞台で高める効果を発揮した。金委員長としてはトランプ大統領との会談も、同じように自分の国際的地位を高めることを期待しているだろう。核兵器が北朝鮮に威信をもたらしたという考え方である。

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写真)北京を訪れたトランプ大統領夫妻と習近平国家主席夫妻(2017年11月8日)
出典)中華人民共和国人民中央政府

 

  ・北朝鮮側からみると、ジョン・ボルトン氏の国家安全保障担当の大統領補佐官就任は米朝首脳会談での交渉の成功の見通しを複雑にするだろう。なぜならトランプ大統領は北朝鮮の核兵器の凍結あるいは破棄の約束を得るために、大幅な譲歩をする可能性が少なくなったと考えるからだ。北朝鮮としてはもしアメリカとの首脳会談が失敗に終わった場合、米側の北に対する軍事攻撃の危険が高まると恐れるだろう。この軍事攻撃の可能性は習・金会談でも協議の課題となったとみてよい。 

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写真)ジョン・ボルトン氏
出典)Gage Skidmore

 

・今回の金委員長の訪中はこれまでの中朝間の指導者たちの交流の歴史をみても異端だった。これまでの6年間で今回の金委員長の訪問も含めて両国間の高レベルの指導者の往来は合計7回に過ぎなかった。この回数は毛沢東時代には合計21回、そのなかには金日成首席の訪中6回が含まれる。胡錦濤政権時代には合計54回だった。

  

写真)金正恩労働党委員長と習近平国家主席
出典)中華人民共和国人民中央政府

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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「危うし!日本の命運」「中・韓『反日ロビー』の実像」「トランプは中国の膨張を許さない!」など多数。

古森義久

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