[嘉山幸子のイタリア留学リポート]<自殺率が増加する経済危機のイタリア>ファッション産業はイタリア経済を救えるか?
イタリア人に対してどんなイメージを持っているだろうか。「食べて、歌って、恋して」といった、明るく陽気な、人生を謳歌する人といったようなイメージだろうか。確かによく食べるし、歌もよく歌っている。そして恋もよくしている。
しかし、実際のところ、やはりそれだけではない。「食べて、歌って、恋して」のイタリア人は、どちらかというとシシリア、ナポリといた南イタリアにおけるイタリア人のイメージに近い。ミラノ、トリノといった北イタリアに住む人々は、少し内向的で真面目で、日本人に似た気質を持っている人もいる。そうした気質の違いが影響してか、イタリア経済のほとんどを北イタリアが支えている。通常は、雇用機会に恵まれた地域でもあるのだ。
経済危機を契機にこの数年で、この北イタリアにおける自殺者数が増加しているのである。自殺の主な原因は、負債と突然の失業である(註1)。2013年の自殺者を見ると、45歳前後の男性を中心に増加傾向にあり、その中でも起業家が約45%を占める。突然のリストラ、倒産により、うつ病を発症する人が増えているのだ。
しかし、国全体として、うつ病を弱さや恥であると考える傾向にあり、問題を家族・友人に話すこと、医師の診断を受けることを躊躇する人も多く、この認識が自殺率を助長させる要因としても考えられている。もともと宗教的な理由から自殺者が少ないはずのイタリアであるが、悪化する経済状況により、状況が変わってきているようだ。
一方、どうにかこの状況を脱したいと、イタリア政府は、来年5月から始まるミラノ万博に期待を寄せている。会場周辺は整備され、その期待を街並みから感じることが出来る。その中でもイタリアを特徴付けるファッション産業はミラノ万博に際し、様々取り組みを推し進めている。イタリア経済を支える大きな産業であるだけに、自分達がこの現状を変えていく担い手であるとも感じているようだ。
今年1月には、イタリア・ファッション協会の責任者に、イギリス人女性ジェーン・リーブ氏が任命された。ファッション協会(註2)の役割は、イタリア・ブランドのイメージを守り、そして世界にその存在感をアピールしていくこと。その役割にイギリス人である彼女が選ばれた背景には、ファッション業界が、グローバルな視点を求め、今までとは違う何かを生み出そうとしているからなのではないだろうか(註3)。
築かれたイタリアのイメージを崩さないようにと、ファッション業界は世界におけるイタリア・ブランドの存在感を保つよう努め、ミラノがファションの中心であると自負するミラネーゼは、モードに関わる人たち以外も服装にこだわり、身だしなみに注意を払う。
イタリアにおけるファッションとは、経済を支えるという意味合いともに、国民一人一人に“イタリア人であるべき姿”のイメージを植え付け、イタリア人としてのプライドのようなものを与えているようにも思える。
華やかなイメージを世界に発信し、ポジティブなイメージが形成される一方で、景気低迷による失業率・自殺率が伸び続けているイタリア。イタリア経済を支えるファッション産業は、イタリア経済を苦境から救い、発展させていくことが出来るのだろうか。
[註1]The local ITALYS NEWS IN ENGLISH |http://www.thelocal.it/20131220/are-italians-too-proud-to-be-depressed
[註2]The local ITALYS NEWS IN ENGLISH| http://www.thelocal.it/20140224/we-have-to-keep-italian-fashion-alive
[註3]National Chamber of Italian Fashion (イタリアファッション協会)
【リポーター紹介・嘉山幸子】
嘉山幸子
コンサルティング会社勤務を経て、エシカル・ファッション・ブランドの立上に参画。次のステップを踏むことを決意し、新たな挑戦の場として、イタリア・ミラノに留学中。
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