[安倍宏行]<ワイドショーなのか?ニュースなのか?>乱立する「情報番組」とテレビ凋落の背景
Japan In-Depth編集長
安倍宏行(ジャーナリスト)
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「ワイドショー」という名前を聞かなくなって久しい。今は「情報番組」と呼ばれている。まるで「ワイドショー」と呼ばれるのを嫌がっているかのように。
テレビ局が看板を掛け替えたのはもう10年以上前。芸能ネタばかり追っかけていたのを方向転換し、社会問題などを積極的に取り入れるようリニューアルしたのだ。そうした動きは瞬く間に各テレビ局に広がり、午前中は、「ワイドショー」なのか「ニュース」なのかわからないような番組が乱立することになった。
一方、各局の看板である、夕方のニュースの時間帯は逆に芸能ネタや尺が長い企画モノの比率をどんどん高めていった。とりわけ、特報などと呼ばれる10分以上の企画モノは、高い視聴率を取るので番組にとっては必要不可欠なコンテンツとなっていった。「xx署密着24時」、「500円ランチ」、「一泊二食付5000円以下の宿」、「万引きGメン」、「国際結婚、青い目の女将」などである。
こうした「ワイドショー」のニュース化と「ニュース」のワイドショー化で、この20年、双方の垣根が限りなく低くなっていった。
では、テレビ局の中で番組制作の体制はどのように変わっていったのか。ここで、明確にしておきたいのは、「ワイドショー」を作っている部署と「ニュース」を作っている部署は違う、ということだ。
「同じような番組なのになぜ?」と訝る向きもあろうが、ニュースは報道局という多くの記者を擁し、終夜取材をしている部署が専門的に作っている。
一方、ワイドショーは、報道局とは別の部署が、報道局が制作した素材(記事や映像)に味付けをして番組に仕立て上げている。
さて、テレビ局の制作体制の変化だが、まず報道局は、記者がワイドショー的な特報など企画モノを作る機会が増えた。優秀な記者ほど企画モノも上手く作るから、専門記者として成長する大切な時期に番組担当に引っこ抜かれ、キャリアパスが中断する。すなわち、組織全体の取材力が落ちることになった。
一方、情報番組を作っている部署は、ほとんどが外注で、制作会社がテレビ局の中に入り番組を制作している。彼らの取材力は間違いなく上がった。これまで芸能ネタや政治・経済とは関係ないネタばかり追っかけていたディレクターが、外交や内政や景気のネタのコーナー企画(通常5分程度)を毎日作らされるのである。しかし、力がついたといっても外部スタッフである。ノウハウはテレビ局内には蓄積されない。
さてここまで読んできて賢明な読者は気づいただろう。テレビ局はここ20年、皮肉にも、自らの戦略で取材力や番組制作力を落としてきたのだ。ニュースにしろ、情報番組にしろ、どのチャンネルもみな同じで、表面しかなぞっていない番組がほとんだ、との批判を真摯に受け止めねば、テレビの再生はない。
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