[古森義久]<中国とロシアの目ざましい接近>アメリカ政府・議会でも中国への険悪な姿勢が加速
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
ロシアのプーチン大統領が中国を訪問し、中国とロシアの接近が改めてアメリカや欧州諸国に深刻な懸念を抱かせるようになった。日本にとってももちろん重大な影響を及ぼしうる動きである。
少なくとも表面的にみる限り、中国とロシアの接近は目ざましい。しかも基調に反米志向がにじんでいる点がとくに不吉な印象を与える。ロシアはウクライナのクリミア地方を強奪する形で併合した。中国は南シナ海で領有権の主張をさらに野心的に拡大し、ベトナムの排他的経済水域(EEZ)の内部で一方的に石油採掘を強行した。
しかもベトナム側の艦艇を武力で追い払った。さらに中国は人民解放軍がアメリカの大企業にサイバー攻撃をかけて、産業秘密を盗み出したことを理由に米側司法当局から刑事訴追を受けた。アメリカ側では政府でも議会でも一気に中国への姿勢が険悪となった。
そんな中国がこんどはロシアとの間で合同の軍事演習を実行したのだ。しかも中国がロシアから長期に天然ガスの供給を受ける契約も結ばれた。いやでもアメリカへの対抗という構図が浮かんでくるのだ。
そもそもプーチン大統領が今回、中国を訪れたのは上海で中国政府が中心になって開いた「アジア信頼醸成措置会議(CICA)」の首脳会議に加わるためだった。このCICAという組織そのものがそもそもアメリカに対抗する狙いが露骨だった。アジア諸国がロシアやイランをも含め、アメリカ抜きに安全保障策を講じるという趣旨の組織なのだ。
こうみてくると、中国とロシアがアメリカへの対抗という共通カードを固く手に握って、新たな安全保障のきずなを結ぼうとしているような感じがどうしても強くなる。中国とロシアが反米の同盟を新形成するという構図である。もしそうなれば、この中ロ提携はいまの世界のパワーバランスを突き動かす激動要因となる。地政学的にみても、1991年のソビエト連邦解体以来、最大の世界の力関係のシフトとなる。
しかしその一方、アメリカ側の専門家たちの間には、中国とロシアがそう簡単に同盟に近い安保のきずなを結ぶことはないだろう、という観測も根強い。中国とロシアの間にはアメリカへの対抗という共通カードはあっても、いざ隣国同士の関係をみると、なお中ロ両国が同盟を結ぶことを阻む要因も多いのだ。中国とロシアと、シベリアなどでの長年の利害の衝突など、その一端である。
だが中ロ接近が日本の安全保障に重大な意味を持つことは疑いの余地がない。日本としても、この中ロ両国の間の動向を細かくみきわめることが欠かせないわけだ。
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