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.JID  投稿日:2014/5/31

[Japan In-depthニコ生公式放送リポート]全ての子供に家庭を!日本の社会的養護制度を考える


Japan In-Depth編集部

 

DSC_0761「夢が持てない」-5月1日に人権支援NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ日本が発表した報告書のタイトルだ。

この報告書には何らかの理由で実親と暮らせず、施設や里親のもとで暮らしている日本の子供たちの現状が詳細に書かれている。

今回は、ヒューマン・ライツ・ウォッチの日本代表を務める土井香苗氏と、人権問題に力を入れて活動している結いの党の議員、椎名つよし氏を招き、社会的養護下にある子供たちの現状について議論した。(Japan In depthチャンネル 2014年5月24日(土)放送:テーマ「全ての子供に家庭を!日本の社会的養護制度を考える」)

番組冒頭でとったアンケートによると、「社会的養護」という言葉について知っていると答えた人は約2割にとどまった。「社会的養護」とは「保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと」 。つまり、「本来、子供は家庭で面倒をみるべきだが、それが困難な場合、社会でケアしましょう」ということだと土井氏は話す。

日本で社会的養護下にいる児童は4万人近くにのぼる。そのうちおよそ85%の子供が養護施設や乳児院のような「施設」で暮らし、里親のような「家庭的環境」で暮らしている子供は15%に満たない。この数字は諸外国と比較すると非常に低く、欧米主要国では概ね半数以上が里親委託であるのに対し、日本では施設養護への依存が高い。

「施設スタッフに非があるわけではないが、やはり子供には家庭が必要なのだ」と土井氏は強調し、その理由について以下を挙げた。

  •  乳幼児の段階で施設で育つと、脳の発達に問題をきたす可能性が高くなるという研究結果が出ている。
  •  施設内での虐待、とくに子ども同士の虐待やいじめ(性虐待含む)被害を訴える声が多い。
  •  家庭であれば、親対子で2対1、1対1の関係が築けるが、施設ではどうしても例えば3~4対1等、子供一人当たりの職員数が少ないし、一日八時間制で交代してしまう施設では、プライベートな空間が持てないケースが多い。
  •  スタッフの入れ替わりがあるため、信頼できるスタッフがいなくなってしまうことがある。
  • 18歳になると施設を出なくてはならないため、突然一人になって経済的基盤もなく保証人社会で保証人もなくて学業や仕事に困ったり、社会に出て、一般的な家庭の常識がわからなくて困ったりする。

では何故、日本の里親委託率はこんなにも低いのか。その理由について、土井氏と椎名氏は、

  • 既に養護施設が多くあるため、それらを維持するために施設に入れることが、児童相談所の中で慣習化してしまっていること実親が養子縁組や里親に合意しないケースが多い。
  • その場合には家庭裁判所の承認を得ればいいのだが、児童相談所はたいへんだといって児童相談所が裁判所に訴え出ない里親の選定・支援・研修・モニタリングが不十分であり、児童相談所がすべての登録里親に自信をもって子どもを委託できないこと

などを挙げた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本は報告書の中で、政府や国会に対して、いくつかの提言を投げかけた。その中で特に大切なのは、

  1. 今後まずは乳児院の数を減らし、最終的にゼロにすること
  2. 里親に対する支援・研修・モニタリングを充実させること

の2点であるという。今後、提言を実現させるため、ロビイングを行っていく方針だ。また、椎名氏は、議員立法で法律を改正できないか、他の政治家と共に活動を始めているという。

最後に、「特別養子縁組制度」について議論した。この制度は現時点では、ほとんどが民間業者によって行われており、児童相談所をほとんど介さないところに大きな特徴がある。この制度は実親との親子関係を切って、養子縁組し、あたかも本当の親子であるかのようになれるところも画期的だ。

ただし、民間の業者も信頼できるものからそうでないものまで幅広く、闇雲に制度の拡大を促すのではなく、ある程度規制しながら慎重に進めなくてはならないだろう。また、児童相談所も、縁組をもっと積極的に行わなくてはならない。

驚くべきことに、毎年50人以上の子供が虐待により死亡しているが、実はその約半数が、生まれてすぐの0ヶ月で死亡しているという。それは望まない妊娠をしながらも、様々な事情で中絶もできず、この先育てられないために殺してしまうというケースが多いそうだ。

このような悲惨な事態を少しでも防ぐため、特別養子縁組制度は有効である。今の日本では、妊娠してしまったら「堕ろす」か「自分で育てる」しか選択肢がない。しかし、ここに第三の選択肢「安心できる他人にしっかり育ててもらう」が生まれてもよいのではないか。不妊で悩む人たちにとってもそれはプラスになるだろう。

「すべての子供は家庭的な環境の下で暮らす権利がある」-これは国連子どもの権利条約に記されている世界共通の決まりだ。日本でももっと多くの子供が、家庭で育ち、夢を育むことを願いたい。

 

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