存在感示す「都民ファーストの会」
Japan In-depth 編集部(大川聖・井上麻衣子)
【まとめ】
・都議選7月2日。都民ファーストの会、候補者12人選定。
・小池知事の下、東京大改革が加速している。
・豊洲問題、都の信頼取り戻す努力必要。
オリンピック・パラリンピック問題、豊洲市場問題と、難題を抱える小池都知事が大勝負を仕掛ける東京都議会選挙は7月。小池氏率いる都民ファーストの会が、議会の過半数を抑えるべく候補者選定に動く中、今回はキーパーソンである都民ファーストの会の上田令子都議会議員をゲストに迎えた。
安倍編集長は、小池百合子氏が都知事になって以来、東京都関連のニュースが報道をにぎわせているとし、都民のみならず全国的に都議会への注目度が高くなっていると指摘。上田氏は、都知事に関する報道が表面的なものに終始するのではなく、オリンピック・パラリンピック等の政策課題を織り交ぜて報道されていることは評価できるとした。
■都民ファーストの会 成り立ちと役割
まずは都民ファーストの会とはどういうものなのか、という質問に対し、上田氏は、「小池氏が創設した“希望の塾”の資金管理をする団体として誕生したが、今後は候補者を擁立して都議会においても議論のできる、改革のできる組織として、地域政党化を目指している」とした。
さらに小池知事を唯一支持していた無所属3人(両角穣氏、上田令子氏、音喜多駿氏)から成る「かがやけTokyo」という会派が「都民ファーストの会」に名称変更したと伝えた。また上田氏は、東京都政策企画局のHPに掲載している 、“都民ファーストでつくる「新しい東京」~2020年に向けた実行プラン~”を紹介。セーフシティ・ダイバーシティ・スマートシティという3つの柱を軸に、知事の政策を推し進めていく会派」であると説明。また、「二元代表制なので、都議会の立場から出る、改革をもっとこうした方が進むのではないかというアドバイスを受けたり、知事部局等が気付いていない課題を提案したりしている」と述べた。
さらに、「税金の無駄遣いをなくし、情報公開を進めていくということと、都庁の自律機能を高め、豊洲やオリンピック・パラリンピックのようなブラックボックスの温床にならないように組織改革を進めていく」とした。また同時に「議会も、これまでのように予定調和の質問を都庁の職員に書いてもらうというような議会文化をなくしていく」として、小池都知事を筆頭に改革を進めていく姿勢を改めて示した。安倍編集長は、そうした都議会議員を選出してきた都民の責任についても指摘した。
■小池都知事に対する既存会派の反応
そんな勢いある小池都知事の改革に対して、既存の会派は、 どういう反応を示しているか、という安倍編集長の質問に対し、上田氏は、「自民党都連は見た目は平穏を装ってはいるが、手の出しようがない状況。今知事に野次でも飛ばそうものならマスコミも含め傍聴者もおり何もできない。予算の反対もできなかったように、やりようがないのではないか。知事に対して反論するならエビデンスを示して指摘、批判できれば良いが、肝心の予算委員会の原稿の書き手がいない、議場で批判する能力もない状態では非常に困っているだろう」と答えた。
また、豊洲問題を追及するための百条委員会が三月に決定したことについても、「我々非自民側が結束したことが強く影響した」と述べた。一方、法的拘束力があるといわれている百条委員会で石原元知事から新しいことは聞き出せるのか、という問いに対して、「地下空間のようなわかりやすいことがでてくればいいが、何故こうなったかというプロセスを明らかにすることが重要。また、重要案件の規範書が1〜5年で、廃棄されて良いのかということを都民の前で明らかにすることが大事である」との考えを示した。また、石原氏には3月3日に予定されている会見だけではなく法的拘束力のある、議事録に残る場で話をききたい、と述べた。
■都議選に向けた動き
7月2日の都議選に向けて、1月23日に上田令子氏、両角穣氏、音喜多駿氏、本橋弘隆氏が都民ファーストの会の第一次公認候補として発表された。上田氏、音喜多氏、両角氏は元「かがやけTokyo」で、本橋氏はいわゆる‘7人の侍’の親分的存在だった人である。
2月6日には村松一希氏、尾島紘平氏(ともに練馬区議、‘7人の侍’、元自民党)、伊藤悠氏、増子博樹氏(ともに元民進党)が第二次公認候補として発表された。さらに同月14日にいずれも「希望の塾」の塾生の保坂まさひろ氏(台東区議)、馬場信男氏(足立区議)、佐野いくお氏(小平市議)、関野たかなり氏(東大和市議)の四名が第三次公認候補として発表され、計12名の候補が明らかになった。
また、都民ファーストの会は単独過半数を狙うとの報道もあったが現実的にはどうなのか、という問いに対して上田氏は「希望の塾の合格者は男女合わせて300人いるが、大変経歴もよく、社会貢献をされてきた方が多いので、非議員であっても、議員と遜色ない人材が揃っている」と語り、合わせて候補者を選定していくとの考えを示した。
一方、今後、都議選に向け、都議会自民党からの離党者が増えると思うか、との質問に対しては、「報道されているほど会派ごとに衝突しているわけではない」とし、百条委員会のメンバーが変わったことに言及しつつも、自民党は既存の支持基盤で戦おうと考えているのではないか、と述べるにとどまった。
また安倍編集長は、「都知事選というのは大きな変化を起こすことが難しい選挙構造になっているとベテランの政治評論家から聞いたことがあるが、小池氏は易々と都知事になり、千代田区長選で小池知事が支持した現職が自民・公明推薦候補にトリプルスコアで勝利した」とその止まらぬ勢いを指摘。これに対し上田氏は、「小池氏の考えが自民党支持の良識派の保守層に響いた結果なのではないか」と分析した。
また安倍編集長が、「小池旋風は加速することはあっても弱まることはないと見ている」とし、「小池旋風はそんなに長く続かないといった意見に対して、有権者を甘くみているのではないか」と語ると、上田氏も、「小池都知事の初登庁の際、自民党が出迎えなかったのは空気が読めていない証拠。今ようやく 目が覚めたのではないか」と述べた。安倍編集長は「今回の都議選では、これまで選挙に関心を持っていなかった人の票や浮動票が集まり、投票率があがるのではないか」と指摘した。上田氏も、「国会議員はテレビで見る、区議会議員は地元でみる、 都議は中二階で関心も払われず、ブラックボックスをつくり、『都議会のドン』が力を吸収していくことがおきていたが、小池劇場ということでオープンにすることで都民の関心が高まっている」と分析した。
■注目の子育て政策
小池氏の政策の中でも注目は子育て政策。待機児童問題解消のために思い切って1100億円以上の予算配分となっている。自身の長男が待機児童になったことをきっかけに区議会議員になった上田氏は、小池知事によって待機児童対策の予算が大幅増額されただけでなく、区市町村からの意見を取り入れ、土地を出す、コンシェルジュを作る、クオリティ保持のため見回りを拡充するなど画期的なアイデアが盛り込まれていることに感動したと高く評価した。
一方、安倍編集長は、 女性の社会進出が進むほど、待機児童問題も増えていき、予算が際限なく必要になるというジレンマを指摘。これに対し上田氏は、「女性が就労をやめると逆に税金をかける人になる。保育園もそのときそのときはなくなるが、女性が働き続けると納税をしていくわけで生涯年収が1億超、2億と違ってくると、一人が納税する額つまり生涯納税額が変わってくる。それを勘案せず、目先のコストばかりを議論するのではなく、試算すると生涯をかけて女性は働いて保育園にお世話になったのを返していっているので、私はここは思い切ってかけてもいいかなと考えている」とした。
また「幸か不幸か少子化なので福井の養老院の例があるように介護との複合施設型にする、小規模でURなどで空き物件を活用するなど、いくらでもお金をかけずにできる。今までの公務員を雇って公立保育園を作るとなれば莫大なお金が必要だが、そこについてもアイデアを出し合い、都有地は安く長期で借りるなどコストのかからない保育政策を打ち出している。」と述べ、待機児童問題について予算をつけることに加えて具体的なアイデアがあることを強調した。
また、今まで都の各局は都有地をだそうとしなかったが、小池都知事になって118カ所でてきたことについて上田氏は「公権力、例えばオリンピックの会場に使うときは森喜朗元内閣総理大臣・公益財団法人日本体育協会名誉会長にいわれて舛添要一元都知事が無料で提供するなどしていたが、女、子供、民間が使うとなると出し惜しむというのが私の印象である」とした。
また、「都有地は財務局のものと思われがちだが、都民からお預かりしているもので困っているのだから提供するように知事が言ったところ118カ所出てきたということ」と述べた。さらに安倍編集長は、「画期的なのは、土地の貸し手、つまり地主にとってもメリットがあり、固定資産税、都市計画税等が減免されていること。センスが良い」と指摘。これに対し上田氏は小池都知事だからこそ駆使できる知恵と人脈の強さによるものであると語った。また都有地は地理的に不利な場所の場合もあるので、民有地を貸すインセンティブを作ったことで民有地を活用する案も考えられているという。
また給与水準が低い保育士に、プラス2万円上乗せすることや、保育士の男性が生活できないため寿退社してしまうことをなくし、生涯の職業としてもらうため、キャリアアップのための予算を付けていく」 と対策を講じるとした。
■幼児虐待、子供の貧困問題
上田氏が以前から取り組んでいる、幼児の虐待やこどもの貧困の問題については、「平成25年から児童相談所の区への移管を取り組んでいたが前の知事、その前の知事の元では、なかなか進まなかった。今では法改正もでき、江戸川、世田谷、荒川区に児童相談所を移管し虐待の早期発見、対応ができるようになっている。小池都知事が変わってから加速度的に進み、各区は予算をつけて児童相談所は箱ものの用意をする段階になり、法律に則って総務局、福祉保健局も協力していく体制ができた」と語った。
また里親については、乳幼児はこれまで有無を言わせず乳児院に入ることになっていたが、乳幼児の里親・養子縁組に向けての予算もつき、家庭保護を推進していく方向になったとした。具体的には、「乳児院が里親のコーディネートをするといった、本来の仕事以外にも人的な配慮ということで予算がつき、ようやく里親推進が進み、これからは世界の潮流に乗って施設養護から家庭養護にシフトをきるというようになった」と述べた。
さらに「日本は9割が施設養護で世界は里親養子縁組が9割と比率が逆である」ことを指摘。子供を乳児のときから里親が家庭で育てる、つまり家庭養護を重要視する姿勢を示した。「今後は妊娠中から里親・養子縁組を相談できる体制にもなっていくと思う」と述べた。
安倍編集長は千葉県の例を挙げ、里親候補がいてもうまくネットワーキング化されておらず、特定の人に連絡が集中したり、待てど暮らせど連絡の来ない里親もいたりすることから、里親同士や、里親と児童相談所が密にやり取りできるようにするべきだと主張した。
上田氏も「1体1でなくても、全体の里親グループでたくさんの子をたくさんの目と手で育てるということがあってもよいのではないか、里親自身が具合の悪い時は助け合ったり、長期休みだけ預かったりする等、急に里親になるより里親になる準備・心積もりとして柔軟にこどもを預かるような仕組み作りが必要」と提案した。
上田氏は、「豊洲、オリンピック・パラリンピック問題だけでなく、人の命に関わることも小池都知事は地道におこなっているので、こうした問題もメディアにはもっと取り上げてほしい」と語る。「東京大改革が見えにくいと言われることもあるが、小池都知事は実務家なので、知事査定も時間をかけて行っており、“都民ファーストでつくる「新しい東京」~2020年に向けた実行プラン~”も職員の意見が反映されている。目安箱で600の意見を聞くなど、若手や第一線の職員が実はこうしたらいいのではと思っていたことを言いやすい雰囲気になっている」と述べた。
■豊洲移転問題
豊洲問題について上田氏は、都議選の争点とはならないと思うとしたが、「情報公開をしていなかったことなどプロセスに問題があったことは明らか。今後は東京都が失った「信頼」を取り戻すための努力が必要で、それにより数値で測ることのできない「安心」を都民に感じてもらいたい」とした。
またあわせて、築地の仲卸業者には補正予算で補償についても計上している、と述べた。また市場会計の問題についても、豊洲にとどまらず、市場全体の在り方も検討しなければならないと指摘した。安倍編集長は、都知事選の争点として豊洲移転問題を捉えるのではなく、科学的な調査の結果に基づき、検討していくべきと述べた。
■五輪に向けたテロ対策
またテロ対策について、安倍編集長が法的整備の欠如を訴え、日本の危機感のなさに警鐘を鳴らすと、上田氏は、中東の経験がある小池都知事にはテロに対する危機感が高く、オリンピックに向けたテロ対策に期待できるとした。
最後に、視聴者に「都民ファーストの会」を支持するか?をアンケートしたところ、発足したばかりの団体であるが83.4%が支持すると答えた。安倍編集長は、国政にも影響のあるといわれている、7月2日の都議選に注目するよう、呼びかけた。
(この記事はJapan In-depthチャンネル 2017年2月22日放送の内容を要約したものです)
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この記事を書いた人
上田令子東京都議会議員
ナショナルライフ保険(現ING生命)入社後、以降数社を経て、起業も。2007年統一地方選挙にて江戸川区議会議員初当選(44名中6位)。2期目江戸川区議会史上最高記録、2011年統一地方選挙東京都の候補全員の中で最多得票の1万2千票のトップ当選。2012年衆議院議員選挙惜敗。2013年東京都議会議員選挙初当選