[安倍宏行] <美味しんぼ騒動を考える>今回の騒動を「表現の自由」の問題などにすりかえてはならない
Japan In-Depth編集長
安倍宏行(ジャーナリスト)
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「福島の真実」第24話が19日発売のビッグコミックスピリッツに掲載された。22話、23話と続いてきた回の最終話という位置づけで、次号からしばらく休載となる。もっとも”美味しんぼ“は作者取材のため休載することがこれまでもあった。今回も「再開にご期待ください。」との編集部のクレジットが出ている。
さて、第24話では、主人公山岡士郎が「福島の未来は日本の未来だ。これからの日本を考えるのに、まず福島が前提になる。」「福島を守ることは日本を守ることだ。であれば、俺の根っこは福島だ。」と語る。原作者の雁屋哲氏が、今回の3話で福島の健康被害を取り上げた大前提はそれであろう。
それを受け、海原雄山が「福島の住んでいる人たちの心を傷つけるから、住むことの危険性については、言葉を控えるのが良識とされている。だがそれは偽善だろう。医者は低線量の放射能の影響に対する知見はないと言うが、知見がない、とはわからないということだ。私は一人の人間として、福島の人たちに、危ないところから逃げる勇気をもってほしいと言いたいのだ。」と語る。
山岡ら主人公が鼻血を出したり、倦怠感を訴えたりしたのも、「危険性について言葉を控えることは偽善」と考える作者にしてみれば当然のことであったろうし、今回の3話を通して、“福島から逃げる勇気を持つ”ことを主張していることが改めて明確になった。
山岡は続ける。「(われわれにできることは)福島を出たいという人たちに対して、全力を挙げて協力することだ。住居、仕事、医療などすべての面で、個人では不可能なことを補償するように国に働きかけることだ。」と。今、福島の人たちに対して我々が何をすべきなのか、作品を通じて訴えている。
雁屋氏は、作中で、福島から「千差万別の事情」で離れられない人も大勢いる、と主人公に語らせているので、福島から避難することを主張することに大きな反発があることを予想していたと思われる。一方で、「外部の人間」が「自分たちの意見を言わないことは」「福島の人たちに嘘をつくことになる。」と主人公たちに語らせてもいる。それなりの覚悟があったようだ。
震災から3年が過ぎて、いまだ福島の人たちを苦しめる風評や健康への不安を敢て取り上げれば様々な反発が起き上がることは容易に想像できたろうが、多くの読者にこの問題を再考させたい、という強い意志を感じる。結果として、読者のみならず、ニュースを知った人たちに、この問題を知らしめた、という観点から、意味はあったと思う。
編集部が、今回の“美味しんぼ”を巻頭ではなく、最後から2番目に掲載した理由は不明だが、10ページにわたり、「『美味しんぼ』福島の真実編に寄せられたご批判とご意見」と題して、識者や行政の意見を掲載したのは漫画週刊誌としては異例だ。学者の意見も様々であり、放射能の影響に関してはこれだけ様々な意見がある。それがこの問題の複雑さであり、取り上げる難しさでもある。是非多くの人に読んでもらいたい。
筆者は、今回の騒動が、表現の自由の問題などにすりかわってはならないと考える。今後何十年も続く、福島第一の処理と放射性廃棄物の処理、廃炉の問題は、日本国民一人一人の問題だ。決して、避けては通れない。私たちは、これらの問題から目を背けず、多くの意見に耳を傾け、自ら判断することが必要だ。そうしてリテラシーを上げることが、他人の意見に左右されない、確固たる行動につながると思う。そして、それが原子力と生きていかねばならない日本人の責務なのだ。
[追記]最後に、私も父の故郷は福島であり、母も東北出身である。風評や風化の二つの「風」に立ち向かうことが、私たちの責務であると考えている。東北の食材を紹介する会の開催や被災企業の取材などを通し、広く人々に被災地の実態を知ってもらう活動を今後も続けていく。
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