[田村秀男]<97年の増税後の慢性デフレを忘れるな>責任のない官僚の勧める増税こそが財政収支悪化の元凶という現実
田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)|執筆記事|プロフィール
消費税増税後の景気動向について、政府と日銀が楽観論を盛んに流しているが、内部では「本当に大丈夫だろうか」という声が少なからずあり、筆者の耳にも漏れ伝わってくる。公の場では大本営発表同然の「公式見解」が相変らずまかり通るが、それでもニュアンスは微妙に変化しつつある。
例えば、日銀政策委員会の石田浩二審議委員は29日の講演で、景気の現状は底堅いと言いつつ、「実質賃金の減少か消費全体にじわじわと影響してくる可能性もある」と、慎重な言い回しながら政府、日銀を通じて初めて問題点に言及した。
日銀幹部の公式発言は事前に日銀内で検閲を受けなければならない。この問題点をはるか前から本欄などで指摘してきた筆者にとってみれば「何を今更」と冷やかしたくなるが、日銀としても楽観論一点張りではヤバイと心配し始めたのだろう。
一方、筆者が信頼を置く数少ない民間エコノミストの一人である片岡剛士三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員は17日付けのリポートで、消費税増税後の景気回復過程は「L字型」を示唆すると指摘した。景気用語でL字型というのは、V字型と並んでよく使われる。字形通り需要は4〜6月期に急激に落ち込んだあと停滞局面に入り、前年の水準を下回ったままで、2015年以降も低迷が続く。
97年増税の場合は98年以降の慢性デフレを招いてしまったのだが、今回もその二の舞に陥る恐れがあるのだ。そうなると「増税で財政再建」どころか、「増税で財政悪化」の泥沼にはまる。
グラフは増税前の96年度と比べて税収がどうなったかを示している。所得税収と法人税収は大きく落ち込み、その減収分が消費税増収分をはるかに超えて財政が悪化して、現在に至る。全体の税収が増えたのは97年度だけだが、同年度でも消費税以外の税収は減っている。98年度からはデフレ局面に入り、消費税を含む全体の税収は96年度を下回り続けている。
財政赤字を理由に、財務官僚は次なる消費税増税を仕掛け、野田佳彦民主党政権(当時)を丸め込んで、自民、公明の両党を巻き込んだ「3党合意」を成立させて、14年4月から8%、15年10月から10%への増税路線を敷いた。97年増税による惨憺たる結果を無視したわけである。
グラフをもう一度みてほしい。14年度は財務官僚が仕組んだ予算ベースで消費税収は大幅に伸びるが、所得税と法人税収入はアベノミクス効果が表れた13年度実績を下回る。
97年増税がそうだったように、増税によるデフレ効果が税収減となって本格的に表れるのは増税実施の翌年度からである。財務省はその愚を繰り返すうえに、15年度中に再増税を安倍晋三首相に最終決断させようとしている。首相は失敗の責任を絶対にとらない官僚の意のままになるのか、それとも、官僚からの圧力をはねのけるのか。
再増税の最終決断時期は今年12月で、そのときに明らかになる7〜9月期の景気データを参考にするようだが、それよりもグラフが示す97年増税後の慢性的なデフレや財政収支悪化の事実をより重視すべきではないか。
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