[田村秀男]<アベノミクス建て直しを>安倍首相の景気・経済対策を「評価しない」との回答が「評価する」を上回る
田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)|執筆記事|プロフィール
7月21日に発表された産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査によると、安倍晋三首相の景気・経済対策を「評価しない」との回答が47.1%と「評価する」を7.7ポイントも上回った。4月の消費税増税後の勤労者家計の実質収入や消費支出の急激な落ち込みが反映した。
政府や日銀が強調する個人消費、設備投資とも底堅いという楽観論を鵜呑みにしてきた日経新聞などメディア多数に対し、一般世論は冷静に現実をとらえたわけである。
「アベノミクス」は世論の高い支持率に支えられてきた安倍首相の強力な指導力なくして成り立たない。支持率が低迷するようだと、アベノミクスは効力を失う。消費税増税がそのきっかけをつくりかけているわけで、筆者が本コラムや拙著「アベノミクスを殺す消費増税」や「消費増税の黒いシナリオ」で1年前から警告してきた事態になりかねないと危惧する。
経済の政策モデルというものはいったん頓挫すると、半永久的に放棄され、二度と同じ試みがなされなくなる。アベノミクスは日本再生の最後のチャンスであり、挫折すれば日本の未来は閉ざされてしまう。
どうするべきか。今さら、消費税率をもとに戻すわけにいかないから、せめて来年10月からの税率10%への引き上げを見送るべきなのは言うまでもない。だが、そうした消費税に限定した議論では、「増える社会保障財源をどうするのか」という財務官僚の論理に押し切られるのがオチである。
20年デフレで沈んできた日本経済にふさわしい財政政策をどう位置づけるか、という基本的な路線を明確にすることから再出発すべきではないか。
そもそも、消費税増税は財政のプライマリーバランス(公債など債務関連の元利払いや公債発行を除く財政収支)を均衡させるために欠かせないという論理が殺し文句になってきた。増税なしで適切な経済政策を実行して景気を浮揚させると税収は自然に増加し、財政収支が均衡に向かうという事実が無視されてきた。
アベノミクスが成果を挙げた13年度、名目国内総生産(GDP)の前年比伸び率は1.9%であるのに対し、税収総額は6.9%伸びた。GDP増加分1に対して税収がどれだけ増えたかという税収弾性値は3.7である。財務省は税収弾性値を1.1程度にしか見ない。
ところが、内閣府は経済モデルを使った「経済成長と財政健全化に関する研究報告書」(2011 年10 月 17日)で2001~9年の税収弾性値を4.04と算出している。景気回復局面での弾性値は3~4に達する。
安倍首相はこの狂った国家財政・経済政策の羅針盤(税収弾性値)を廃棄して、正しい弾性値を内閣府や御用学者ではない専門家に算出させて、アベノミクス専用の羅針盤にすればよい。上記の報告書の主査、岩田一政日本経済研究センター理事長など「御用」でない学識者もいるのだ。
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【プロフィール】
産経新聞社特別記者・編集委員兼論説委員
日経新聞ワシントン特派員、香港支局長、編集委員などを経て2006年12月に産経新聞社に移籍。早稲田大学政経大学院非常勤講師、早稲田大学オープンカレッジ講師を兼ねる。著書は「人民元、ドル、円」(岩波新書)、「国際政治経済学入門」(扶桑社)(PHP研究所)「反逆の日本経済学」(マガジンランド)「日経新聞の真実」(光文社新書)「アベノミクスを殺す消費増税」(飛鳥新社)「消費増税の黒いシナリオ」(幻冬舎ルネッサンス新書)など多数。