[安倍宏行]<日本は景気回復局面にあるのか?ないのか?>専門家の間でも見方の別れる日本の景気回復の見通し
Japan In-Depth編集長
安倍宏行(ジャーナリスト)
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「GDP実質6.8%減」と1面トップで報じたのは日本経済新聞13日の夕刊。
えっと思った人もいたのではないか。しかし、翌日の同紙朝刊は「景気緩やか回復続く」がトップだ。一体、日本は景気回復局面にあるのか、ないのか?
まず、注意しなくてはならないのは、最初のニュース「GDP実質6.8%減」だ。記事をよく読むと、この数字は今年4~6月期のGDP(国内総生産)前期比1.7%減を年率に換算したものなのだ。つまり、「4月から6月の3か月は前期に比べ消費は減りました。
その状態が1年続けば、マイナス6.8%になりますよ。」ということを言っているに過ぎない。7月以降、プラスに転じれば、もしかしたら4~6月のマイナス分は帳消しになるか、もしくは年率で見ればプラスになるかもしれないのだ。
そもそも、4月に消費増税があったわけで、今年1~3月期は年率換算で6.1%増だった。いわゆる駆け込み需要で、その反動が出る4月以降、当然消費が一時的に落ち込むことは織り込み済みだった。
消費増税直後の成長率を過大評価することは景気の基調をミスリードしてしまう。そういったことをメディアはきちんと解説する必要がある。徒に見出しで煽るな、と言いたい。
実際、日経は14日朝刊で、「日本経済は年後半にかけて緩やかな成長軌道に戻りそうだ。」との記事を掲載している。企業の設備投資も7月以降は増え、個人消費も回復に向かうため、と分析している。
もっとも、景気回復の見通しについては専門家の間でも見方が分かれている。駆け込み反動は大きくないと見て、去年から続いている賃金上昇が消費を下支えする、との分析もあれば、実際に建設現場などで起きている人手不足が回復の足を引っ張る、との見方もある。
景気が失速するとまでの悲観論はまだ大勢を占めてはいない。実際、街角景気を見てみると、大手家電量販店は消費増税後の4~6月期でも黒字決算や増益となっている。
タクシーに乗っても客が減ったとの声は聞かない。一方で、スーパーや百貨店の売上は増税後苦戦しているなど、業種によって回復はまだら模様だ。
2015年10月に消費税率を10%に再増税するかどうか、安倍晋三首相は年末に決断せねばならない。判断の根拠となる7~9月期の景気動向はどうなるか。8月半ば以降の天候も景気を左右するだろう。
日々の景気報道に一喜一憂することなく、冷静に市場の動きを分析、予測し、賢い消費をすることが私達にも求められている。
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