[神津多可思]今年生まれた赤ちゃんが40歳台半ばになる頃には、日本人のほぼ半分が65歳以上に!
神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)
人口の高齢化が急速に進む日本。しかし、本格的な高齢化社会の到来はまだこれからである。
国立社会保障・人口問題研究所は、老年人口(65歳以上)と生産年齢人口(15~64歳)の比率について、2010年に1:2.8であるのが、2022年には1:2、2060年には1:1.3になると予想している(2012年1月の出生中位推計)。
今年生まれた赤ちゃんが40歳台半ばになる頃には、日本人のほぼ半分が65歳以上になっているということだ。
もちろん、そのときには高齢者雇用も今よりは増えているだろう。しかし、付加価値生産にまったく従事できない高齢者の割合が今よりかなり高くなることは避けられない。したがって、日本経済全体としてみれば過去の貯蓄を取り崩す状況となっている可能性が高い。
そのような本格的な高齢化社会へ移行していく過程では、今行っている貯蓄が、できるだけ高いリターンを実現し、かつ元本もちゃんと戻ってくることが求められる。それは、貯蓄を投資に結び付ける「金融仲介」の力がこれまで以上に問われるということだ。
もちろん、世の中、都合の良い話ばかりではない。一般的に期待リターンの高い投資案件は、その分、元本が戻ってこない可能性が高い(ハイリスク・ハイリターン)。投資の安全性だけを重視すれば運用リターンは低くなってしまう。
しかし、それだけだと、元本は受け取れるが、利払いだけで豊かに暮らせるとまではいかない(ローリスク・ローリターン)。そのバランスをどううまくとるかが金融仲介の腕のみせ所だ。
これまで日本全体としては貯蓄超過であった。将来、付加価値生産に従事できなくなることに備え貯蓄に励む人がいる一方で、国内投資の主体となるはずの企業は事業の見直しを優先させているので、銀行などの融資を受け設備投資を増やす状況になく、結局、国内貯蓄を使い切れずにきた。
他方、社会保障制度の高齢化社会への対応が遅れていることを主因に、財政赤字は年々増加しており、そのファイナンスのため国債が発行されている。つまり国内貯蓄のかなりの部分は結果的に国債で運用されている。それでもなお、貯蓄が余ってしまって、それが海外に向かっているというのがこれまでの日本の金融仲介の実状である。
その下でも、金利は歴史的な低水準となっている。本格的な高齢化社会が来ても、今のままであるなら貯蓄からのリターンはごく低く、引退後の豊かな生活を実現するには心もとない。年金一般も、将来に備えるという意味では広義の貯蓄であり、話はまったく同じだ。
そこで金融仲介には、安全性を維持しつつより高いリターンを実現するという、ある種、無理難題が求められる。それにどう対応するか。
現在打ち出されている対応策の1つは、機関投資家や社外取締役が上場企業により高い収益性を実現する経営を促すというコーポレート・ガバナンス(企業統治)の強化。
もう1つは新しい環境に即応した収益性の高い企業をどんどん生み出すという起業の促進だ。これらはいずれも金融仲介を通じて実現される。
これらに加え、海外投資の収益性を向上させることも大事だ。海外投資には常に為替変動というリスクがつきまとう。だが、世界を見渡せば、日本よりも高い成長率を実現している国は新興国を始めたくさんある。
つまり、日本国内よりも高い利益率を実現している企業が海外にはたくさんあるということだ。それらの企業に投資し、かつ為替リスクを吸収して、結果的に今より高いリターンを実現するよう金融仲介の力を高めていく必要がある。実際、世界中で分散投資を行い、結果的に高いリターンを実現しているヘッジファンドはいくつもある。
国内すべての金融機関にそういうかたちの実力向上を求めるのは無理がある。
安全性を損なわずより高いリターンを実現するという無理難題を解決し得る金融機関(おそらくは都市部にあり専門家集団を抱えることのできる銀行や証券会社)と、そこに資金を流す金融機関(おそらくは地域において貯蓄吸収と決済業務に主眼を置く相対的に規模の小さな銀行や協同組織金融機関)との間の、いわば卸売り的な金融仲介の拡充も重要だ。
そのような金融機関の機能分化により、日本の金融仲介の力はより高まる。そうなれば、一層安心して本格的な高齢化社会を迎えることもできるようになるはずだ。
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