ゴーンと司法
.国際  投稿日:2014/8/24

[岡部伸]<米露関係悪化招いたウクライナ危機>ロシアのモスクワ「マクドナルド」を営業停止は政治的決定?「岡部伸(のぶる)の地球読解」


岡部伸(産経新聞編集委員)

執筆記事

 

ロシア紙「コメルサント」によると、ソ連崩壊直前の1990年にモスクワに開店して大行列で世界的に有名になった米ハンバーガーチェーン大手「マクドナルド」の4店舗をロシアの衛生当局は8月20日、営業停止処分とした。

ペレストロイカの象徴といわれた人気の1号店は1日平均1万2000人が来店し、閉鎖された4店舗の売上高は1日で計500万ルーブル(約1430万円)以上になるという。衛生当局は「店舗の検査で違反が確認された」と説明しているが、混乱が続くウクライナ危機で対露制裁を強める米国をけん制する政治的決定であることは間違いない。

クリミアのロシアへの併合を招いたウクライナ危機は、マレーシア航空機撃墜にロシア軍が関与しているとの疑惑が欧米で深まり、米国、欧州連合(EU)が制裁強化する動きに出て、米露関係は東西冷戦終結後、最悪の状態となった。

虚心坦懐に情勢を眺めてみると、ウクライナ東部・南部の親露派勢力を「テロリスト」とレッテルを張って6月20日以来の停戦延長を拒否したウクライナのボロシェンコ大統領の「挑発」が見逃せない。停戦を機にロシアが軟化し、ボロシェンコ大統領とロシアのプーチン大統領、さらにオランド仏大統領、メルケル独首相の4者で電話会談を繰り返し、問題解決に向けて緊張緩和の機運が醸成されていただけに、ウクライナが停戦合意を破棄し、ロシアとの戦闘を再開させたことは明記しておかなければならないだろう。

ボロシェンコ大統領が戦闘再開を決定しなければ、対話によって連邦制を導入していれば、内戦は止んだはずだ。それならば、東部ドネツク州を実効支配する親露派勢力がウクライナ政府軍機と誤認して地対空ミサイル「BUK」でマレーシア航空機を撃墜することも武器の闇市場から入手する必要はなかったといえる。

もちろんロシアのプーチン大統領の責任は重い。ロシア軍が直接、親露派武装勢力を支援はしていない。しかし、ロシア軍参謀本部情報局(GRU)がOBのネットワークを使って親露派武装勢力を後ろ盾となり、武器販売によって簿外で有した資金を武装勢力に流し、それで傭兵や武器購入に充てられている。プーチン大統領はGRUにOBを使ったウクライナ工作を止めろと命令すれば、紛争拡大は防げた可能性が高い。

そもそも兄弟国ロシアとの紛争に発展した今回のウクライナ危機が起きた一因に、隣国ポーランドの経済急成長がある。社会主義時代そのままの政権腐敗から経済成長が頓挫した旧政権に嫌気がさした市民が欧州連合(EU)入りを求めてヤヌコビッチ前大統領退陣を求めたからだった。市民が求めたのは、ベルリンの壁崩壊まで同じ共産国家でありながら、瞬く間に「自由と豊かさ」を手にしたポーランドの政治、経済モデルだった。

世界銀行の統計によると、ソ連崩壊直前の1991年にポーランドの国内総生産(GDP)は830億ドルで、ウクライナの770億ドルと大差なかったが、2012年は4900億ドルと、ウクライナ(1800億ドル)の2.7倍となった。11年間でポーランド市民は約3倍豊かになった。「ドイツやフランスには追いつけなくても、ポーランド並みに繁栄できるはずだ」。ウクライナ市民が不満を爆発させて、新政権誕生につながったのだ。

しかし、菓子メーカー「ロシェン」の創業者で「チョコレート王」の異名を持つボロシェンコ氏が大統領に就任した新政権は腐敗と汚職が深刻だ。金満実業家のボロシェンコ大統領からは、ソ連崩壊後のロシアのエリツィン政権末期に国家資産を略奪して大富豪にのし上がり、クレムリンを牛耳ったベレゾフスキーらオリガルヒ(新興財閥)と同じ臭いが漂っている。

民主主義者とは言い難い。過去の大統領や首相を含む同国指導者らを腐敗させてきたロシアのガスへの依存から簡単には脱却できないだろう。

また政権内部には反ユダヤ主義のネオナチ勢力も含まれている。「民主主義の発露」とオバマ米大統領が全面支援するボロシェンコ新政権で、市民が求める「自由と豊かさ」が実現できるとは想像できない。

そもそも自国の領空を実効支配できずにマレーシア航空機事故を招いたウクライナ政府の責任も少なくない。ドイツ大衆紙ビルトは、ドイツの安全保障当局者の話として、米中央情報局(CIA)と連邦捜査局(FBI)が多数の要員をウクライナに送り込み、ウクライナ新政権を支援していると報じている。親ロシア派が攻勢を強める東部での治安安定のため、首都キエフにとどまり、新政権に助言を与えているという。

ウクライナ危機で米露の対立が激化する中で、ほくそ笑んでいるのは中国であり、イスラム革命を目論むアルカイーダ系の「イラク・シリアのイスラーム国」過激勢力だろう。中東における米露の協調が実現するのは不可能になった。イラク、シリア、パレスチナ情勢の悪化が懸念される。

そして何よりも中国が経済的、軍事的に拡張する中で、安倍首相が北方領土問題解決など関係拡大に取り組んでいた日露関係への影響が懸念される。米国が「ならず者国家」と非難するロシアのみならず、正当性に疑問符がつくロシアの「兄弟国」ウクライナ新政権の動向にも注目したい。

 

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【執筆者紹介・岡部伸(おかべ のぶる)】

27831959年生まれ。立教大学社会学部を卒業後、産経新聞社に入社。社会部で警視庁、国税庁などを担当。
米デューク大学、コロンビア大学国際関係大学院東アジア研究所に留学。外信部を経てモスクワ支局長。
社会部次長、大阪本社編集局編集委員などを経て編集局編集委員。著書『消えたヤルタ密約緊急電―情報士官・小野寺信の孤独な戦い』で第22回山本七平賞授賞。
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