[渋谷真紀子]【アメリカは女性が働き易い?】 ~私が出会ったワーキングウーマンの現状と課題~
渋谷真紀子(ボストン大学院・演劇教育専攻)
日本で、女性活躍省が設立されて約1ヶ月。女性CEOが活躍するイメージがあるアメリカですが、演劇業界・演劇教育関係で出会ってきた仕事とプライベートを充実させている女性達の秘訣を考えてみたいと思います。
例えば、昨年トニー賞ミュージカル演出賞を受賞したDiana Paulus。2014年TIMES誌が選ぶ世界で最も影響力のある100人のリストTIME 100にも選ばれた1人です。彼女はAmerican Repertory Theaterの芸術監督で、ハーバード大学英語学部の教授も務めています。
プライベートでは、ハーバード大学時代からの友人と結婚し、二児の母です。実際にお話すると、人柄の良さを感じ多くの人に慕われる人格者ということがわかりました。まさに才能を開花させ、仕事とプライベートの両立を実行している女性です。
私が通う大学院のPerforming Arts学部長Melia Bensussenも、演出家として数々の賞を受賞している二児の母です。愛に溢れた人柄と鋭く的確な演出センスが光る魅力的な女性で、多くのファンがいます。
他にも、今年のトニー賞ミュージカル作品賞のプロデューサー、演劇教育者として表彰された4児の母教授、私が舞台を演出した小学校の校長先生や演劇の先生、働いている劇団のマーケティング・PR・プロモーションマネージャーなど、様々な働く女性達と出会ってきました。その中で感じるのは、未婚・既婚・子持ちに関わらず、プライベートの充実を重視していることです。
具体的にはまず、夜の付き合いが少ないことがあげられます。仕事とプライベートの切替がハッキリしており、人のプライベートに干渉しない印象があります。2つ目は、子連れ出社や自宅勤務、子供の学校行事に抜けるフレックス勤務の環境が整っていることです。個人のタスクと成果を重視する環境なので、成果が出せる働き方であれば良いということです。実際にはできないことも多いものの、プライベートを守ることへの寛容性が周囲の人々にあると思います。
3つ目は、ベビーシッター利用の日常化です。産休育休は最小限にし、ベビーシッターに頼るのは、働く女性にとって一般的です。3ヶ月産休を取ると長い印象があると言われ驚きました。日本では、出来る限り親が育てるのがいい印象がありますが、ママさんデザイナーは、赤ちゃんの時から母以外の教育者や友達と関わることは、自立した子供に育つのでいいことだと話していました。アメリカでは人に頼るのが良いというスタンスは面白いと思いました。
とはいえ、育休の少なさは女性キャリアの厳しさを物語っています。成果主義なので、長く休めば自分の損失になる為、早く復帰しようとします。産休・育休を取るタイミングなどを気にしなくていい“養子”も選択肢の一つだと言います。
さらに、同居したハーバード大学女性講師によると、公私共に「男らしさ」「女らしさ」が求められ、万能な男性が社会を救う“スーパーヒーロー像”が強いことを日々痛感すると言います。長期的にキャリアを維持するには「女性」らしさが求められると同時に、「いかに上手に助けてもらうか」が鍵になっているようです。日本でモテると評判の4低(低姿勢、低依存、低リスク、低燃費)男性の話をしたところ、1人も思い当たらないと笑っていました。
アメリカでは、プライベートの充実が尊重される一方で、成果主義のプレッシャーや期待されるジェンダーキャラクターやジェンダーアイデンティティ(多様なジェンダーへの寛容性)の意識改革に課題があります。日本でもこれから、女性が働きやすい環境が整っていくと思いますが、単なる女性の優遇ではなく、ジェンダーロールにとらわれない意識改革を個々人で進め、お互いに助け合える“思いやり社会”を築くことが大事だと思います。
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