[渋谷真紀子]【米・小学生かぐや姫演じた!】~アートが実現する異文化に寛容な社会~
渋谷真紀子(ボストン大学院・演劇教育専攻)
ボストンには一足早く秋が訪れ、新年度が始まりました。市内中心にある小学校で芸術祭にあたる学生発表用に「竹取物語」の脚本・演出をしました。「竹取物語」は日本最古の物語ですが、という世界共通の話日本らしい要素だけでなく、世界共通の月からやってきたお姫さまの話で、ストーリーには唐や蓬莱山等、過去の歴史的な国名や地名が出てくることから、アメリカの子供達とやってみたい作品でした。また、スタジオジブリが「かぐや姫の物語」を上映し、知名度が上がっていたおかげで、その舞台版としても喜んでもらいました。アメリカは、アジア系人種比率が全体の5.3%(2013年データ)の社会であり、その中で日本の古典である竹取物語をボストンの小学生が演じたことは想像以上の反響を呼びました。人種のるつぼ(Melting pot)と言われるアメリカ社会ですが、実際には多人種が交わらない「Cob salad(コブ・サラダ 注1)」だ、という皮肉があります。
教育環境においては、教師の約9割が白人で、英語が母国語でない生徒も交えた多文化教育をどう行っていくべきか、試行錯誤です。(白人といってもルーツは多種多様なので、家では英語以外を話す人もいます)その中で、アートは、多文化理解と尊重の効果的な学習ツールだと思います。
私はまず、アメリカと日本の子供達の生活を映像で見せ、日本を身近に感じてもらうところから始めました。「ディズニーランドがあるなんて羨ましい!」「トトロ知ってる!」等の反応がありました。「竹取物語」という異国のお話に親しんでもらうため、参加型の1人芝居でお話を知ってもらった後は、ストーリーラインを写真のようにポーズで表現、即興で子供達の言葉でお話を展開させる等の手法を使い、彼らのクリエイティビティを活用して、脚本を書きました。
キャラクター紹介ゲームでは、選んだカードのキャラクターの年齢・性別・位によって対面するキャラクターとの挨拶を変えるゲームをしました。英語には敬語がないため、「おはよう」と「おはようございます」を使いわけるところは、ゲームとしても興味深かったようで、とても楽しんでくれました。また、正座も習慣となり、毎回クラスの初めは正座で私を待ってくれるようになりました。基本的には英語で演じるのですが、日本語の役名はもちろん、「むかしむかしあるところに」という物語の始まりの言葉を日本語で述べたり、月に帰ったかぐや姫を眺めながら月の俳句を日本語で詠んだり、かぐや姫の成長のシーンに「さくらさくら」にあわせた扇子の舞を取り入れたり、求婚者の失敗エピソードを、白うさぎが「恥知らず」「甲斐無し」等の表現でまとめて表現の由来を解説したり、帝とかぐや姫の短歌は万葉集の英訳を身体で表現させたり、和服と和小物を使ったり、と、あらゆる過程で日本文化体験ができるようにしました月のお姫さまが異国で求婚を拒み月へ帰るというアメリカの子供達でもわかりやすいストーリーを演じる中で、自然と日本文化を体験させ、日本らしさを感じてもらいました。。
結果は大成功。観客からは「静と動のメリハリがあり、詩的なセリフと美しい衣装で日本の芸術性の高さを感じたわ」「ハワイで生まれ育ったのでアジアには親しみがあったけど、ボストンの子供達が演じる機会があるなんてとても感激したわ」と言う人もいました。子供達は「竹から生まれるのが大好きなシーン!」「正座やお辞儀、花道での演技等の日本スタイルが体験できて良かった。」「歩き方・座り方・演じ方・着物や小道具、全てカッコイイので、もっと日本を知りたい!」「扇子がオシャレ。誕生日プレゼントに欲しい♬」「竜と戦うのが最高だった!」「日本人は“思いやり”を大切にすることを学べた。」等と感動を口にしました。又、学校からも高評価を得ました。昔から多文化、他国との平和的共存はなかなか解決されない課題です。ただ、何でも積極的に吸収できる小さい頃から、芸術を通じて他文化体験をすることで、少なからず異文化に対する寛容性に貢献できると信じています。子供達が、言語や文化を越えて本当に伝えたいことに出会った時、芸術という平和的手段を選べるようにしたいのが私の願いです。また、子供達だけでなくそれに関わる大人達にも波及効果があります。理解と協力が必須の国際社会において、日米だけでなく、異文化理解に寛容な社会を実現できるよう、こうした活動を今後も広げていきたいと思います。
1.Cob Salad(コブ・サラダ)
1930年代ロサンゼルスのレストランオーナー、ロバート・H・コブ氏が考案したサラダで、レタス、アボカド、トマト、ブロッコリー、チキン、ゆで卵,ベーコンなど盛りだくさんの具材を使うサラダ。
<写真:「帝とかぐや姫」より>
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