[佐々木瞳]<演劇『ロメオ・パラディッソ』>5月3日、4日、福島に熱い男たちが集結
佐々木瞳(元ラジオ福島・アナウンサー)
「100年続くエンタテインメントを福島から創り出す」そんな夢を実現しようとしている男たちがいる。彼らは1から演劇に挑戦した。その名も「ロメオ・パラディッソ」。それは、男だけのエンタテイメント劇だ。
「ロメオ」とは、Local Mens Organizationの頭文字から取った造語であり、パラディッソとは、ラテン系の言葉で「楽園」を意味する。直訳すると「地方の男たちが組織だって作った楽園」、つまり「福島を元気にするために集う男たちの集団」だ。メンバーは福島県出身・在住に限らず、全国から集まってくる。彼らは、演劇を通して 文化を創造し、福島の復興に結び付けたい…そんな想いを共有し立ち上がった。
初回公演は、去年の11月だった。演じたのは、ほとんどが舞台経験ゼロの30人の男たち。演出家の指導の下、稽古が連日繰り返され、手作りの舞台セットの準備も前日まで続いた。そして公演当日…昼夜2回公演、なんと1450人の観客が足を運び、大盛況となった。
この時の物語は、売れないバンド5人組がタイムスリップする2万年後の未来。 歌、ダンス、楽曲が随所に盛り込まれていて、最後まで観客を引きつけた。会場からの鳴りやまない拍手、そしてステンディング・オーベーション。1450人を感動の渦に巻き込んだ。
そんな1回目の公演から半年、いよいよ2回目の公演が始まる。今回のテーマは、「八犬伝」。江戸時代から伝わる日本の長編伝奇小説の古典の1つである。公演の1週間前に稽古の様子を取材した。
稽古場は、福島市街地から少し離れた倉庫だ。そこで今回舞台に立つ16人の男たちが、稽古に励んでいた。激しく声を張り上げ、勢いよく刀を振り、何度もぶつかる、そんな緊迫したシーンが展開される…と思えば、コントのようなコミカルな場面も。前回とは正反対の時代劇だ。
キャストリーダーのSHIGEさん(26才)は、「今回は、一回目よりダンスや歌が多くなり、太刀シーンもある。前回以上に感動を与えられるステージにしたい」と意気込みを語った。見所を聞くと、「3人の女形と、HIPHOPを取り入れた『八犬士ダンス』に、特に注目してほしい‼」と話す。この『八犬士ダンス』、レッスンを見たが、歌いながら踊るアイドル顔負けのアップテンポなダンスで、観客を魅了するに違いない。
今回、16人のうち5人は新メンバーだ。その1人、福島市出身のCIANさん(21才)は、参加した理由について、「『100年続く文化を創りたい』と本気で考えている彼らの話を聞いて、祭りの熱気にあてられたような気分になった。僕も福島を盛り上げたくて、次の日からすぐに稽古に参加した。」と話してくれた。
ロメオ・パラディッソは、今後さらに進化していくという。運営しているNPO法人ふくしま新文化創造委員会代表の佐藤健太氏(32才)は、「今後、ロメオのメンバーが子供たちに歌やダンスなどを教えるスクールをつくりたい。2016年までには、福島市に震災の資料館やロメオのシアターを常設して、福島のことを知ってもらえるツアーも企画したい。」と大きな夢を語る。
大震災で寸断された絆を取り戻し、福島から『100年続く文化』を創る。決して夢物語ではない。彼らの夢は今、現実のものになろうとしている。
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【執筆者紹介・佐々木瞳】
2010年7月に、福島県のラジオ福島にアナウンサーとして入社。 東日本大震災後は、震災報道に従事し、 津波の被害の大きかった浜通りを中心に県内各地を取材。 また、朝の情報番組や中高生を対象にした番組のパーソナリティー、番組企画、制作、イベントの司会なども務める。
2014年3月に退社。「福島の今を伝え続けたい」という想いから、 被災地の取材を続ける。