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.国際  投稿日:2015/2/2

[安倍宏行]【テロリストのプロパガンダを垂れ流すな】~日本のテレビ局が陥っている罠~


安倍宏行(Japan In-depth編集長/ジャーナリスト)

「編集長の眼」

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多くの人が後藤健二さんの最後の映像を目にしてしまった。恐ろしいことだ。ネット社会はこうしたことを可能にしてしまった。悲惨で悲劇的な映像を見たくなくても一度ネットを繋げてしまえば否応なしに目に飛び込んできてしまう。

ISIL(イスラム国)は、強力な広報部門を持ち、YouTubeやTwitterなどのSNSを駆使し、世界中に宣伝を流し続けている。その目的は明白だ。世界を恐怖に陥れると共に、有志連合の足並みの乱れを誘うことにある。我々はそのプロパガンダに乗ってはいけない。

国際通信社AFPはISILの流す映像や写真、音声を報道するにあたり、一つ一つ慎重に検討し、すべてを流すわけではない、としている。なんの検証も加えずテロリストの宣伝を流すことはメディアとしての役割放棄に等しい。

それが日本のテレビ局はどうだ?いつまでも後藤さんを殺害したと思われるISILの戦闘員Jihadi John“ジハーディ(聖戦を行う者)・ジョン”と呼ばれる黒服の男のメッセージを彼の“地の声”で放送し続けているではないか。これがテロリストの宣伝でなくてなんであろう。

後藤さんと湯川さんが跪かされている映像も何回も何回も流されている。後藤さん、湯川さんと彼らのご家族にとってどれだけの苦しみを与えているか、考えてみたことはないのだろうか。その配慮が全くない。

アメリカでは、9.11が起きたとき、ワールドトレードセンターが崩落した映像はすぐに放送されなくなった。遺族がPTSDになることに配慮したからだ。しかし、日本のテレビはずっと放送し続けた。3.11の津波の映像もしばらくの間、流され続けた。

何故このようなことが起きるのか。日本のテレビ局には、テロに関する衝撃映像やテロリストのメッセージを放送する際のきちんとした基準を作っていないのではないか。今回の報道ぶりを見る限り、とてもあるとは思えない。仮にあったとしても、機能していないようだ。

同じ映像が垂れ流さる原因に、テレビ局のVTR制作のシステムも関係している。長時間のニュース番組や情報番組の場合、制作するVTRは相当な長さになる。一人の編集マンでは対応できないので、複数メンバーで一斉に編集作業を行う。その際、誰もが使う“象徴的な映像”というものがある。今回の例だと“Jihadi johnの安倍首相を名指しした脅迫のセリフ”などだ。一度編集されたその“象徴的な映像”は複数の担当者が自分の編集しているVTRの中で使うので、結局、多くのVTRに同じ映像が登場することになるのだ。

つまり、編集が始まる前の初期の段階で、テロに関する映像を一つ一つ検証し、どの範囲まで放送するか判断をしないと、この「垂れ流し」問題は解消しない。こう言うと、それは自主規制になるじゃないか、などという声が出てきそうだが、そうではない。メディアとして、テロに関する映像を放送する場合は、慎重な上にも慎重に判断しなければならない、と言っているのだ。

無編集で残虐な映像を流したり、テロリストの肉声を繰り返し放送することは、彼らの狙い通りだということに気づかねばならない。これからも同じような映像がテレビに溢れるはずだ。この状況が一日も早く改善されることを強く望む。


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