[イ・スミン]【韓国平昌冬季五輪、開催ピンチ】~深刻な財政危機、分散開催案浮上~
李受玟(イ・スミン)(韓国大手経済誌記者)
2018年“グローバルな冬まつり”の舞台になる韓国の平昌(ピョンチャン) 郡は今、名分と実利の間で悩んでいる。「ポスト▪オリンピック」を考慮し、昨年12月、国際オリンピック委員会(IOC)で可決させた「アジェンダ2020」がその悩みの始まりだ。
「アジェンダ2020[1]」は、これまで長野、ソチなど莫大な資金を投資した冬季五輪の開催地が、行事が終わってから深刻な財政問題に巻き込まれることを回避するため、開催国や都市を分散させて競技を進行してもいいという内容、いわゆる五輪複数国・都市開催案を盛り込んだ。
これによって3年後の冬季五輪を準備している平昌にはリュージュ、ボブスレー、スケルトンのそり種目の競技場を新しく建設する案の代わりに、長野の施設を利用することが具体的に提示された。 この場合、韓国は約1億ドル(1,120億ウォン)を節約できるという主張も出た。
しかし、今、平昌は国家レベルはもとより都市レベルの分散開催もすべて不可、という立場を崩さずにいる。 国家レベル、つまり長野の施設を利用(IOCの提案)したり、韓国と北朝鮮が一緒に進行する案(韓国政界の提案)はほぼ破棄された状態だ。
日本との分散開催案は「韓国内で初めて開催する冬季五輪」という象徴的価値を落とす可能性があるし、また国民の反日感情を無視することができない政界から反対の声が高まってきた。朴槿恵(パク・クンヘ)大統領もこの案は「(韓国にとって)意味がない。」と語った。そして南北の分散開催はコスト削減という主な目的を達成することが厳しいし、北朝鮮との関係が不安定だからとの理由で排除された。
平昌以外の都市(江陵・茂朱など)でいくつかの試合を進行する案も地域住民の激しい反対にぶつかった状況だ。 これらは、平昌冬季五輪組織委員会や江原道(平昌郡の上位地方自治体)などが約束した地域への投資を他の所には移さない、という覚悟を示したものだ。
しかし江原道と平昌郡がオリンピックの準備に向けて負う、天文学的な規模の借金は着々と現実のものになっている。 江原道はアルパインスピード競技場とボブスレーのそり競技場が含まれた雪上競技場2ヵ所を新たに作っている。 また、スピードスケートとフィギュアスケート場など、氷上競技場4ヵ所を新設している。 残りの7つの競技場は、既存施設を利用したり補完したりして使用する方針だ。
この競技場を新しく建てたり、補完したりするために、計6,993億ウォン(約755億円)が必要で、中央政府から補助する国費の5,245億ウォンと地方費の1,748億ウォンが入る。 2012年から昨年まで2,209億ウォンが投入されており、今年は2,448億ウォンが追加で試合場の新築費用に投入される。 ここにスノーボード競技場補強費用のように当初正確に予測していなかった費用が少なくとも500億ウォン以上になるものとみられる。
もっと深刻な問題は閉幕の後にくる。冬季五輪の場合、利用時期が冬に限られており、一般人が簡単に接しにくい種目が多いので競技施設を利用するのが極めて厳しい。 しかし施設の維持費は毎年100億ウォン以上かかると予想されている。
さらに冬季五輪は、マーケティングの効果が夏季に比べて劣る面があるため、企業の参加も活発でない。平昌も冬季五輪が持つこの限界から決して自由ではない。平昌冬季五輪組織委員会が明らかにしたスポンサー誘致の目標額は8,700億ウォンだが、現在3分の1も満たしていない状態だ。 このように大企業が冬季五輪のスポンサーについて懐疑的な立場をとっている中、2月24日には朴大統領が直接に「(大企業オーナーたちは)韓国のメディチ家になってほしい。」と積極的な協力を注文した。
しかし平昌が競技場の建設にむやみに力を入れている以上、未来はそれほど明るくない。平昌と似たような方式で、山を切り崩して競技場を新しく建てることに熱中したソチ冬季五輪(2014年)は500億ドル以上の赤字を記録し、バンクーバー冬季五輪(2010年)も100億ドルの借金を負うことになった。長野冬季五輪(1998年)も110億ドルの借金[2]を獲得したと推定される。
一部ではオリンピックが借金で行われるフェスティバルだと指摘し、これでは「幸運」ではなく「呪い」に近い、との声が上がっている。果たして、平昌は「五輪の呪い」を避けることができるだろうか。
こうした状況を打開するには、新築競技場を国家代表選手たちのトレーニング場として積極的に活用することはもちろん、冬季のスポーツのメッカとして各国の観光客を集めるなどの妙案が提示されなければならない。
注)[1] 五輪招致の過程の簡素化、都市や国家間の五輪分散開催、五輪の種目弾力的変化などが主な内容に含まれている。 主な目的は開催費用の節減にある。トーマス・バッハ委員長はアジェンダの通過投票に先立って“‘アジェンダ2020’が確定されれば、2018年と2020年の冬・夏季五輪を開催する韓国と日本が一部の種目を分散開催することができる”と言った。
注)[2] 長野冬季五輪組織委員会は閉幕後、2800万ドルの黒字を出したと主張したが米国の経済学者たちは事後分析を通じて約110億ドルの赤字が出たという結果を発表した。