[佐藤慶一]【米・調査報道メディアの挑戦】~「プロパブリカ」年間レポートより~
(プロパブリカ年間活動レポートより)
佐藤慶一(ウェブ編集者/メディアリサーチャー)
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調査報道メディア「ProPublica(プロパブリカ)」が2014年の活動報告書を発表した。2007年に設立されたプロパブリカは、2010年にオンラインメディア初となるピューリッツァー賞を受賞した調査報道NPO。これまでにニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなど100以上のメディアとパートナーシップを結び、公益性の高い報道を多くの人に届けている。記事で扱うトピックや地域に合わせて、記事を出すメディアパートナーを選ぶことで、報道の効果を最大のインパクトにしようとすることも特徴だ。
設立のきっかけは、サンドラー財団のハーバート&マリソン・サンドラー夫妻が、調査報道の維持に貢献したいとの考えから、ウォール・ストリート・ジャーナル編集主幹だったポール・スタイガー氏に声をかけ、編集長に迎えたこと。サンドラー財団から2007年より、年間1,000万ドル(約12億円)の寄付を受け、活動開始した。2008年1月に運営を開始、同年6月から独自ニュースを毎日配信。立ち上げ時は28名だった記者や編集者もいまでは約60名での体制となっている。
そんなプロパブリカの2014年の報告書を読むと、報道がどれだけ評価されたのか、メディアの各種データ、メディアパートナーリストなどさまざまなことがわかる。2014年は記者や記事が10以上の受賞を受けたと発表している。受賞記事は医療や労働、教育、差別、安楽死など社会問題を幅広く、深くカバーしている。パートナーと提携し、インパクトのあるかたちで報道をおこなう。
報告書のはじめに書かれている「ProPublica had taken on stories most news organizations won’t touch because they are too complex, too expensive, or too legally risky.(プロパブリカは多くの報道機関があまりにも複雑でコストがかさみ、法的な危険もあることから触れようとしないストーリーの受け皿となっている)」という文章は、プロパブリカの立ち位置をそのまま表現している。
2012年に発生したハリケーン「サンディ」後のアメリカ赤十字社の支援や会計のずさんさを継続的に伝えた調査報道は2014年の代表例のひとつ。1ドルの寄付につき91セントが支援プログラムに寄付されるとしていたが、それは誇張であったことが判明。ハフィントンポスト日本版でもその記事のひとつが紹介されているので、関心のある方はご覧いただきたい。
社会問題を広く伝えるという意義ある活動をしているプロパブリカだが、実際のところ、メディアとしての規模は小さい。月間の平均ページビューは166万(2013年から25%増)月間訪問数が67万(同20%増)、ニュースレターの購読者は7万人以上。
ただツイッターのフォロワーは33万人と多い。また、これまで提携したパートナーは115社にもなり、ニューヨーク・タイムズやアトランティック、バズフィード、ガーディアン、ワシントン・ポストなど有力メディアが名を連ねる。2014年は新たに、若者から支持されるヴァイス(VICE)やアップワーシー(upworthy)など39のパートナーと提携している。
これまで広告にたよらず寄付や助成などで独立したジャーナリズムを展開してきたが、新しい収入源も開拓しようとしている。2014年2月にリリースした「The ProPublica Data Store」もそのひとつ。ジャーナリストや研究者にデータを有償で提供するというもので、開始半年で3万ドル(約350万円)を売り上げている。調査報道メディアならではのマネタイズだろう。
ちなみに、プロパブリカはその徹底した取材で得たデータを活用して、わかりやすく、インパクトのあるかたちで伝えることを得意としている。2014年に発表された「Data Journalism Awards 2014」では、ファイナリスト75事例のうち、プロパブリカの記事が13個ノミネートされた。ニューヨーク・タイムズ(12事例)などの大手メディアを押さえてトップである。プロパブリカのデータジャーナリズムにも目を向けてほしい。