【親を支援する「現物支給」を】~川崎市中1殺害事件 ① ~
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
川崎市の多摩川河川敷で2月20日未明、主犯の○○容疑者(18)と共犯の17歳少年2人に惨殺された「カミソン」こと上村遼太君(享年13)は、誰からも愛されていた。○○容疑者は1月中旬、上村君に激しい暴力を加えたが、それに憤った大勢の仲間が2月12日に容疑者宅に抗議に押しかけるほど、好かれていた。○○容疑者は犯行の動機に触れ、「カミソンのためにこれだけの人が集まったと思い、頭にきた」「慕われていることに、むかついた」と供述しているという。○○容疑者は5歳も年下でまだあどけない上村君が愛されていることに、殺意を抱くほど嫉妬した。上村君を裸にして冬の川を泳がせ、拘束具で自由を奪い、首や顔をナイフで切りつけて殺害し、遺体を蹴って転がし、その様子をネット実況した挙げ句、亡骸を河川敷に放置した。
こうした所業にもかかわらず、容疑者が有罪と認められた場合の刑期は少年であるため、5年にしかならないだろうとの専門家の声もある。上村君の殺害現場への献花は増え続ける一方だが、そのような軽い刑では国民感情が許すまい。上村君の祖母は、○○容疑者を私刑で処分したいと語った。少年法の厳罰化を求める声が高まっている。
こうしたなか、○○容疑者の家族はネットで晒され、ネット私刑が行われている。殴られ、顔にアザを作って帰ってきた上村君に向き合わず、学校からの度重なる連絡も無視した上村君の母親にも非難が集中している。被害者も加害者も、親が育児を放棄した家庭という環境が生む、ある意味当然の悲劇だった。
だが、無残に殺された上村君は今、何を望んでいるだろうか。心優しかった彼は、過去に母親に暴力をふるい、両親の離婚の原因を作ったとされる父親や、自分を放置した母親が世間に非難されることを望んでいないだろう。母親が立ち直り、残された4人のきょうだいが仲良く、立派に成長してくれることを願っているはずだ。父親のことも気にかけているに違いない。
上村君の母親は給与の水準が低い看護助手で、5人の子供を抱え、毎日早朝から深夜の勤務で疲弊し、子供にかまってやる時間も体力もなかったとされる。こうした親にこそ、支援が必要だ。だが、現金支給では何かと批判も出る。困窮家庭には、食料や調理のサービス、家庭教師による補習授業など、多くの人の見守りを伴う「現物支給」が効果的ではないか。
具体的には、栄養バランスを考えた食事の材料を子供の人数分、食育専門家が家まで届け、小さい子供には作ってやる。小学校高学年に達した子供には、食材の選び方や基礎栄養学を教え、調理の手ほどきもする。そうしたふれ合いの中で、子供の聞き手となり、学校や近所と連携しながら見守る。見守り網を設置すると同時に専門家の雇用も創出し、経済活性化にもなる。
また、こうした家庭の子供が学力的に、大きなハンディキャップを負っていることは、よく知られる。社会問題に情熱を燃やす大学生を家庭教師として雇い、恵まれない家庭に送り込もう。子供の学業を助けるだけでなく、学校や近所との連携見守り網が多重化する。家庭教師の大学生には、授業料減免や現金での給与支給などで厚遇し、学生ローン多重負債問題の解決の一助とする。こうした仕事を経験した学生を、企業や自治体が優先的に雇用する制度も創設する。
見守りを拒絶する親や子供もあるだろうし、食育専門家や家庭教師は両親の代わりにはなれない。だが、多くの人が気にかけて見守れば、加害者になったり被害者になったりする子供の数は、かなり減る。被害者も加害者も出さない仕組み作りこそ、「カミソン」が望んでいることだ。
(このシリーズ全2回。【厳罰化で再発防げず、加害者減らす方策を】~川崎市中1殺害事件 ②~につづく)