無料会員募集中
.経済  投稿日:2015/1/14

[神津多可思]【働く事に意味を見出せる時代の到来】~サービス化が進んだ経済における可能性~


神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)

「神津多可思の金融経済を読む」

執筆記事プロフィールWebsite

教科書で「ぺティ=クラークの法則」という言葉を目にした方もおられるだろう。ごく大雑把に言えば、経済が発展していくと、産業のウェイトが第一次産業から第二次産業へ、さらには第三次産業へと移っていく傾向のことだ。

新年が始まったばかりなので、少し長いスパンで考えてみたい。人類の経済活動の一番最初は、生存のために働いていたと言って良い。まずは食、次に衣、さらに住の順番だったろうか。とにかく生物として生きながらえるために、人類はさまざまな経済活動をした。第一次産業の典型は農林水産業だが、そこにおける経済活動は、元々こうした由来のものだ。

これに対し第二次産業は、製造業、建設業、エネルギー産業などであり、第一次産業で得られた原材料を加工するという経済活動が営まれる。歴史を振り返ると、産業の中心が第二次産業に移行するところで産業革命が起こる。それまで人馬に頼っていた動力が機械化されたのである。そうした変化と並行して経済活動は、生存のためのものから、次第に現在あるいは将来の購買力の蓄積のためのものへと変質していった。その過程で、人が働くことの意味合いも大きく変わり、多くの者にとって、自らが生産したモノが自分のモノではなくなり、単に購買力を保証するだけのマネーというかたちでの賃金を貰うだけになっていったのである。

その後、同一の製品を大量に生産することで単価を大きく引き下げるという生産技術が定着した。ヘンリー・フォードによる自動車生産がその嚆矢であったことから、フォーディズムとも呼ばれるが、最近ではこれを第二次産業革命と言ったりもする。これを契機に、働くことの意味が、生存のために食・衣・住を満たすことから、生存が保証された状態で、物質的に豊かになるためにマネーを貰うということへ、ますます大きく、そして速く変わっていった。

日、例えば国際的な金融危機などが起きると、強欲な資本の論理への批判の声が高まるが、そうした批判が起こるのも、経済活動の目的が、現在および将来の購買力の蓄積へとその軸足を移してしまったからだとも考えられる。そして、そうした状況においては、蓄積された購買力の差が生じるので、最近よく話題となるトマ・ピケティの議論にあるように、貧富の差の問題がクローズ・アップされる。

ところで第三次産業とは、ごく簡単にはサービス産業である。サービスは、基本的に人が人に対して行うものであり、その本質は昔から変わっていない。したがって、食・衣・住が満ち足りて、次第に第三次産業のウェイトが増していく経済にあっては、人と人が対面で関係性を持つ経済へと変化していく契機があるとも言えるはずだ。

ただし、急速に発展した情報通信技術、センサーや人工知能などに典型的な機械の環境認識・状況判断の能力向上(これらは最近、第三次産業革命とも呼ばれる)やマニュアル化された均質的なサービスの展開といった動きもある。したがって、第三次産業中心の経済にあっても、サービスという働きの成果、即ちサービスをした相手の満足というものから、働く者が引き続き切り離されてしまう可能性も大いにある。

しかし、第二次産業革命後、多くの労働者がもはや一人では何も作れなくなってしまったのに比べれば、サービス化が進む経済は、自分の働きの成果をより実感できるような仕組みも増やしていける可能性を秘めているのではないだろうか。さらに、所得水準が高くなるにつれて、需要の多様性も拡がる傾向にある。

これは、同一のモノやサービスをたくさん供給するのでは、顧客の満足をだんだん得られなくなることを意味する。その場合、需要と供給が出会うところでの両者のコミュニケーションがますます重要になる。そこでは次第にモノとサービスの境界線さえも曖昧になる。そういう状況の中で、単にマネーを得るためだけに働くのではなく、自分の生存のために働いていた頃にも似て、働くこと自体により意味を見出せるようなってはいかないものだろうか。

第三次産業革命を通じて、大きな資本がなくとも、誰もがモノあるいはサービスの供給者になれるような時代が来るのだとすれば、こうしたこともただの夢想ではないかもしれない。いや、今回の年末年始の休みは例年以上にゆっくり考える時間があったので、ちょっと飛躍し過ぎたか。

【あわせて読みたい】

[神津多可思]【原油価格急落、日本経済押し上げ】~物価上昇にはタイムラグも~

[ulala]【政府は所得格差の解消に動け】~非正規の待遇改善に期待~

[大野元裕]【中東世界不安定化、新フェーズへ】~テロの輸出の可能性も~

[安倍宏行]【今年は危機管理体制整備元年】~2014年の企業不祥事に学べ~


copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."