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.社会  投稿日:2015/3/7

[関口威人]【判決現場で見たマスコミの問題点と教訓】~美濃加茂市長「無罪」判決~


関口威人(記者)「関口威人のグローカリズム」

執筆記事|プロフィールTwitterFacebook

岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長の贈収賄事件で「無罪」判決が出た。名古屋地裁の鵜飼祐充裁判長は「現金30万円を渡した」とする贈賄側業者の供述を、取り調べ段階での変遷や現場状況と照らし合わせて仔細に検証、その信用性を完全に否定した上で「根拠や裏付けもない」業者供述に頼った検察側を厳しく批判した。

だが、今回の事件については、逮捕直後から藤井市長を「有罪視報道」したマスコミにも反省すべき点が多々ある。

私自身、拠点にする名古屋で当初の報道を見ながら、市長の「危うさ」「怪しさ」を感じざるを得なかった。特に「市長が『選挙には金がかかる』と漏らしていた」「業者が市長選に『選挙スタッフ』を派遣していた」など、後に事実と異なることが分かる情報を大量にニュースとして見聞きした。

しかし、私の知り合いに少なからぬ藤井市長の支援者がいて、彼らはあまりにも違和感を持ち、忸怩たる思いでそうした報道を受け止めていた。やがてキーマンとなる会席の同席者が、インターネット番組で事実関係の相違や取り調べの強引さを訴え出た。私にも徐々に事件の構図が違って見えた。一方で、そもそも業者が売り込んでいた浄水プラントとはどんなものか、防災や技術に関心のある私にとって肝心な情報は伝わってこない。

私は自分なりに真相に迫りたいと強烈に思い立ち、主任弁護人の郷原信郎弁護士に初めてコンタクトを取ったり、業者の足取りを追って京都まで行ったりして独自取材に入った。そこで見えてきたのは、壮大な事業構想をぶち上げ、国会議員を含めた政治家とのつながりをうそぶいて周囲を欺き続けた業者の異様さ、そして一方で捜査当局側の持っている証拠が貧弱なのではないかという感触だった。当局も業者に踊らされているのでは——そんな思いを募らせていった私に対し、知り合いのマスコミ記者は「市長は絶対クロだ」と言い切った。

私も新聞記者出身なので、夜討ち朝駆けで当局情報を一つでも多く取るためにしのぎを削る彼らの苦労や立場はわかる。1人の記者が「クロ」と思い込んでいても、現場の地取りや弁護人から取材した記者の情報を付き合わせ、「白黒」のバランスを取ることは可能だし、最近の一般事件ではそうした配慮がされていることは間違いない。

ただ、今回は容疑者であった市長自身が一つの「権力」。検察もまた「権力」であり、マスコミとしては同時に批判的に見なくてはならない政治事件の難しさがあった。それでも、今回は明らかな検察側の「ふがいなさ」に対して、マスコミがそれをはっきりと批判できなかったがために、世間には事件の構図の一端が抜け落ちて伝わってしまったと指摘できる。それはメディア全体として猛省すべきだろう。

代わりに郷原弁護士が自身のブログなどで徹底的に検察や業者、そしてマスコミを批判する言説を発信した。私も非常に多くを学ばせてもらった。ただ、業者を「詐欺師」と罵倒し、新聞の見出しの付け方にまで注文をつけるなど、個人的にはやや過剰と感じる部分もあった。フリーランスが当たり前に参加して、ネットで生中継される「東京的」な記者会見に慣れていない名古屋の記者たちが会見で萎縮しているように見えたのも、気の毒と思いつつ、もっとしっかりしようぜと心の中でハッパをかけていた。

裁判は一区切りが付いたが、なぜこんな事件が起こりえたのか、誰がどう責任を取るべきなのかなど、納得していない市民も多そうだ。マスコミも私も反省し、教訓を生かしながら、仕切り直していくしかないだろう。

 

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