[古森義久]【ヒラリー氏のアキレス腱、露呈】~有力次期大統領候補に試練~
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
アメリカの次期大統領候補の本命ともされるヒラリー・クリントン前国務長官の公務での電子メールの乱用がいま波紋を広げているが、この展開はクリントン氏の意外な政治的弱みをも露呈したといえそうだ。クリントン氏はオバマ政権の最初の国務長官だった2009年1月からのまる4年間、公務の連絡のメールもすべて私用のメール・システムを使っていたことがこの3月に入って、判明した。アメリカの政府高官は連邦記録法という法律によって公務関連のメール交信はすべて政府管理の公的なメール・システムを使うことが義務づけられている。
クリントン氏もこの政府の規則に違反していたことをすぐに認め、自分の私用メールの送受信の記録5万5千ページ分を政府に提出し、点検を受けた後に公表するという基本に同意した。
しかし共和党側などはクリントン氏の法律違反、倫理違反を正面から追及し、公式の調査の開始を提起した。共和党側の大統領候補の一人に目されるジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事も「透明性に欠ける問題だ」と批判し、自分の州知事時代の公的メールの内容を改めて公開したりした。
しかし共和、民主両党の区別なく、いまクリントン氏に向けられる疑念は一体、なんのためにあえて私用メールを使っていたのか、その動機である。この点、同氏自身は一切、語っていない。そこで当然、生まれるのが「隠したいことが多々あったからだ」という推測となる。
この点で最大の疑惑は2012年9月11日にリビアのベンガジで起きたリビア駐在アメリカ大使の殺害事件に向けられている。当時のオバマ政権はこの事件のテロとしての性格を誤って伝え、同大使らの警備や保護でも大きなミスがあったとされている。
クリントン氏は当時、国務長官としてこのベンガジ事件にも深く関与していた。その際の責任者としてのメール交信もすべて私用システムが使われ、内容が不明のままとなってきた。そこで当時のクリントン国務長官の私用メールの使用はこの種の自分に不都合な情報を隠すためではないかという疑惑が生まれるわけだ。
この私用メール事件はこれからの大統領選挙の予備選の展開でも、その民主党側の最有力候補とされるクリントン氏につきまとい、大きなマイナス要因となりうる可能性もある。
大統領候補としてのヒラリー・クリントン氏はいま破竹の勢いで前進しているかにもみえるが、実はこの種の難点はまだまだ出てきそうなのである。