[大原ケイ]【突進する“手負い猪”オバマ大統領】~米・中間選挙後の不幸な政治状況~
大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)「アメリカ本音通信」
11月4日の中間選挙で共和党に大敗を喫した民主党のオバマ政権は、予想どおり残りの任期を「レームダック」(脚をやられた鴨の意、転じて役立たずの政治家)呼ばわりされることとなった。しばらくは国内では何もできることがないと踏んだオバマ大統領は選挙後すぐにG-20サミットに出席、次に中国の習近平主席と会談し、温暖化ガス排出量をお互いに制限していく目標に合意した。共和党内のお茶会と呼ばれる極右の保守派は、未だに地球温暖化そのものまで否定しており、中国に対しても高圧的な態度で臨むことが良い外交だと思っているので、これは面白くなかろう。
だが、米議会上・下院の”ねじれ”がなくなったにもかかわらず、共和党は「まったく仕事をしない」政策を実行に移すという体たらく。「オバマケア」と呼ばれる国民健康保険改革を撤廃する有効な手段も見つからず、移民問題に着手せず、これまで以上の経済対策も提案してこない。
そして20日、オバマは大統領の権力範囲内で移民問題に取り組むべく、国内の違法移民をこれ以上強制送還しないことを発表した。家族のためにきつい仕事に従事し、進んで自ら教育を受け、アメリカの経済や軍事のために役立とうとこの国にやってきた人材(アメリカンドリームを夢見る「ドリーマー」と呼ばれる)を受け入れなくてどうするのか、と。
基本的に彼の任期が終わるまでの一時的な措置ということだが、米議会に対するメッセージはビザやグリーンカードを発給したり、市民権取得への道筋をつけるという具体的な「残りはお前たちの仕事だ。私のやり方が気に入らないならちゃんと移民法を整備しろ」ということだ。
またオバマ大統領は同時に共和党のリーダーに対し「なにかひとつ折り合えないことがあるといって、全面的に非協力になるのは民主主義とは言えない」と釘を刺すことも忘れなかった。
これを受けて共和党はすぐさま反対表明をし、大統領を弾劾するだの、訴訟を起こすだのと喚き立てるだろう。そして移民問題に限らずこれから2年、議会を牛耳った共和党は、世論も外交も無視した政策を次々と可決しては、オバマ大統領が拒否権を行使する、というパターンになるだろう。
その妨害政策が行き着くところはただひとつ、ちょうど1年前に行われたのと同じ政府閉鎖だ。誰の得にもならず、諸外国に嘲られ、何兆円にも上る経済損失を出すことになる。
2016年、ヒラリー・クリントン大統領当選と同時に、民主党が再び上・下院で議席を取り戻すきっかけとなることを願って、国民はこの狂乱を耐えるしかないだろう。
一方で、デトロイト州ファーガソンにおいて、丸腰の黒人青年を撃ち殺した白人警官が大陪審によって起訴されるかどうか、という決定が近日中に下される。もし不起訴ということになったら、デモが起き、警察の対応によっては暴動となって広がっていく可能性も否定できない。
アメリカでいったい何が起こっているのか。それは、統計的に今世紀半ばにはマイノリティーに転落する白人(男性)の最後の悪あがきである。その戦いを乗り越えることができれば、アメリカはもっと自由な、つまり、同性婚も許され、マリファナ喫煙が許容され、女性の相対賃金が上がり、移民もしやすい国になるだろう。そうでなければ、経済格差がますます増長し、中東での戦争は終わらず、日本人を含む「よそ者」にますます厳しい国となってしまうだろう。
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