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.国際  投稿日:2015/1/7

[大原ケイ]【米経済、原油安で景気回復】~来年の大統領選睨み、政治は波乱含み~


大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)「アメリカ本音通信」

執筆記事プロフィール

 

昨年6月には1バレル100ドル以上つけていた原油の下落だが、年が明けても止まらない。車社会であり、基本的に安い石油で経済が回っているアメリカだが、景気回復の兆しが伝えられている。しばらくガソリンが安くなれば、多くのアメリカ人が車を買い替え、それが他の消費にも拍車をかける。全米を襲う寒波の予報も、暖房用の灯油が安ければ心配ない。

しかし、原油安に釣られてこの数日は株価まで下がり、なんとも先の見えにくい年明けとなった。これはサウジアラビアやアラブ首長国連邦などOPECの石油産国が、アメリカで採掘されるシェールオイルに対抗するため、原油価格下落にもかかわらず減産を拒否しているからだ。

だが、シェール層から「フラッキング」と呼ばれる水圧破砕法で石油を取り出すには膨大な水源が必要で、それによる環境汚染や小規模地震の発生が指摘されており、ニューヨーク州ではヨーコ・オノを始めとする著名人が参加した反対運動が功を奏し、全面禁止となるなど問題も多い。再生可能エネルギー産業にも冷水を浴びせることになりそうだ。

今まで通り中東から安く石油が買えるのであれば、わざわざリスクの高い国内生産を推し進める理由もなくなり、昨年の中間選挙で、上下院とも与党となった共和党が推し進める「キーストーン・パイプライン」の施設に関し、オバマ大統領が拒否権を発動すると発表したばかりだ。それでなくとも共和党は、ガソリンの値段が下がらないのはオバマ大統領のせいだとずっと愚にもつかない言いがかりをつけており、年明け早々政治も波乱含みだ。

オバマ政権としては原油が安い時にガソリン税を上げ、インフラ整備に回したいところだが、それを許す共和党ではないだろう。アメリカの議会では既に2016年の大統領選挙を見据えた戦いが始まっている。民主党候補はヒラリー・クリントンでほぼ決定であり、後はどのぐらいリベラルな公約を掲げていくかが焦点になるだろうが、共和党は今の時点で有力な候補者は誰もおらず、ロムニーだの、ブッシュ(今度は弟のジェブ)だの、誰も食指を動かさないであろう手垢のついた名前しか挙がってこない。

せめて今年中に国民の支持をがっちり掴むような雇用政策や移民法改正、中産階級層の減税などが打ち立てることができればいいが、共和党内のお茶会系保守派が望むのは、中絶施設の閉鎖だとか、違法移民の締め出しだとか、同性婚禁止法だとか、女性やマイノリティーの公民権を阻む時代錯誤なものばかりだろう。

米株式市場が原油価格の下落がしばらく止まらないと判断し、早々にリスク回避すれば、安いガソリンで浮いた各家庭のお金が消費に回り、景気は好転するものとみられている。FRB(連邦準備銀行)はおそらく今年中に政策金利を引き上げるだろうと予測されているため、それを見越したドル高が進むものとされている。

そのアメリカが2015年の日本に期待することと言えば、景気回復とTPPの締結ぐらいだろう。アメリカとしては、原油安が続けば、ロシアや中国の動きの方が気になるところ。そして昨年暮れのソニー・ピクチャーズの映画に端を発したサイバーテロ攻撃で、北朝鮮とのゴタゴタも続きそうだ。

 

 

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