[一色ふみ]【「食べる楽しみ」が心を元気にする】~モチベーションとパワーを得る為に~
一色ふみ(食育インストラクター/ジュニア・アスリートフードマイスター)
「一色ふみのスポーツ×フード」
マラソンではハンガーノック(低血糖)を防ぐために中継地点でバナナなどの補給食を置いているエイドステーションが設置されていますが、エイドの設置が難しい山のスポーツ(トレイルランなど)では個人でエネルギージェルなどの行動食を携帯し補給しながら走ります。一般的なエネルギージェルは手の平サイズの小さなパウチにぎゅっと濃いジェルが入っていて、たったそれ一つでおにぎり約一個分のエネルギーを手早くチャージできます。
山で50kmを超えるような長距離レースではコンパクトでさっとチャージできるジェルなどの行動食は必要不可欠ですが、そういった行動食はそもそもおいしく食べる目的で作られたものではなく、あくまで走りきるためのエネルギーチャージが目的なので、空腹感が満たされることはほとんどありません。
私の主人はトレイルランナーですが、エイドがほとんどないような長距離レースに出るときに彼は私に、「小さい一口おむすびを作ってほしい」と頼んでくることがあります。エネルギーの吸収効率ではジェルに比べるともちろん低いし荷物もかさばるのですが、理由を聞くと「食べる楽しみが欲しい」とのこと。
何時間にも及ぶレースでジェルやクラッカーだけでエネルギー補給するのは、エネルギーこそチャージされますが、食べて美味しいと思う満足感や空腹感はさほど満たされません。走りきるためのモチベーションをあげるには、単純なカロリー摂取だけではなく気分転換が実はとても重要です。
「食べる楽しみ」というのは思いのほか心と身体を元気にしてくれるものです。
病中で食が細かった私の祖母は、孫達が集まってみんなで食事に行くと食欲が湧いて、普段では考えられないほどたくさんの食事をぺろりと平らげていたことを思い出します。
おいしいものを食べたり好きな人達と楽しく食事をしたりすることは、何かをするときのモチベーションを高めたり心を落ち着かせたりするものです。誰しもそういった経験があるのではないでしょうか。
人は「生きたい」という本能を持って産まれてきます。そして生きるために、ご飯を食べるということを脳と体が自然に欲します。そのぐらい“食”は人間にとって重要です。私は立場上、運動のパフォーマンスを上げるためにはこういった食事をすると良い、などという栄養学的な提言をしていますが、その前に大事なのはまず心が元気になることだと思っています。
「栄養!栄養!」と常に意識しすぎて疲れるより、たまには好きなものだけを好きなだけ食べてもいいと思います。食卓を楽しくするためにちょっと奮発して素敵な器を買ってみるのもいいでしょう。ファストフードが好きならたまにはお腹いっぱい食べて幸せな気分になるのもいいでしょう。気の合う仲間とご飯を食べるだけでも元気が出ます。
気持ちが満たされることは、どんな栄養ある食事よりもモチベーションが上がりパワーが湧き出てくるものです。心を元気にする食事、意識してみませんか?