[岡部伸]【中露、米「アジア回帰阻止」で利害一致】~中国主導のインフラ銀行AIIB参加を巡り~
「ロシア連邦大統領による、アジアインフラ投資銀行(AIIB)への資本参加の決定について、お知らせしたい」ロシアのイーゴリ・シュワロフ 第一副首相は28日、中国の海南(ボアオ)で開催されているアジア経済フォーラム年次総会の開幕式でこう述べ、ロシアがAIIBへの参加する意向を表明した。ロシア通信が伝えた。
アジアインフラ投資開発銀行(AIIB)は、環太平洋地域のインフラ投資を目的に、昨年10月に北京で調印された。世界にはすでに、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)など20あまりの国際金融機関がある中で中国が新たな多国間メカニズムを創設したのは、米国主導の国際金融秩序にクサビを打ち、新たな「盟主」としてアジア経済の主導権を握るためだ。
経済の強さは国家のパワーでもある。2030年までに中国が国内総生産(GDP)で米国を抜いて世界一となる予測もあり、AIIB創設は大国主義にとりつかれた中国による「米国」への挑戦とも受け止められている。
世界で最も早い成長を続けるアジアで、経済成長の恩恵に浴し、創立加盟国となることで、入札で有利になると考えているのだろう。当初はアジアや中東だけだった参加国も主要7カ国(G7)の英国に続き独仏伊などのEU(欧州連合)の主要国、永世中立国のスイスさらにBRICSのブラジルからアジアの韓国、台湾、オーストラリアまで「中華帝国」の軍門に下った格好だ。AIIBはアジアの地域内にとどまらず、域外の先進国から新興国まで幅広く参加メンバーに取り込み、創設メンバーが40カ国を超えるのは確実な情勢だ。
ウクライナ問題を巡り欧州で孤立するロシアがAIIBに参加を表明したのは、なぜだろうか。旧ソ連の中央アジア諸国が次々と参加表明したためと伝えられているが、在京の国際関係筋によると、ウクライナ問題で対立が激化する米国のアジアでの影響力をけん制する狙いがあるとの見方が有力だ。「アジア回帰」を目指す米国を西太平洋から排除したい中国と思惑が一致したためという。
中国の習近平国家主席は2年前の2013年秋、シルクロード経済ベルトと人民解放軍が先導する海洋シルクロードで構成する「一帯一路」構想を明らかにしたが、ロシアは、中国が中央アジア諸国で経済的影響力を強めていることを警戒し、1月にカザフスタンなどと「ユーラシア経済連合」を発足させ、競合するAIIBに慎重姿勢だった。
しかし、経済力の低迷が鮮明となり、中央アジア諸国がAIIBへの参加を次々と表明するに及び、アジアで新たな枠組みとの連携が得策と判断したもようだ。シュワロフ第一副首相は、ボアオで、「ロシアは、中国のシルクロード経済ベルト構想を歓迎し、協力強化をうれしく思っている」と述べ、「ユーラシア経済連合」と「シルクロード経済ベルト」構想が地域経済に相乗効果をもたらすことに期待感を示した。
そもそもマラッカ海峡からペルシャ湾に至る拠点をつなぐ「真珠の首飾り」戦略ともいえる海洋シルクロード構想は、中国がAIIBを活用した資金で実現を目指すと見られている。そうなれば、「アジア回帰」を目指す米国の芽を摘むことになり、西太平洋から米国の影響力の排除にもつながるだろう。
これは、米国の弱体化という点で、ウクライナ問題を巡って米国と対立するロシアにとって利害が一致する。あらゆる分野において世界で突出する米国の影響力を低下させることはプーチン政権の国益でもある。欧州勢に続いてロシアがAIIBに参加することで西側諸国の分断が進み、ロシアと組んだ中国がますます世界で存在感を高める戦略的優位に立つことになる。
AIIBはアジアの地域内にとどまらず、域外の先進国から新興国まで幅広く参加メンバーに取り込み、創設メンバーが40カ国を超えるのは確実な情勢だ 創設メンバーは6月末までに出資比率などを固めた設立協定を結び、年内に運営を始める。最終的に1千億ドル(約12兆円)とする資本金の多くを中国が負担し、初代総裁ポストも中国が握る見通しだ。日本と米国は参加に慎重な立場を崩していない。