Japan In-depth 編集部(Mika) Fleishman Hillard Michel Mommejat氏インタビュー 「日本企業はリスクを怖がらず、もっと大胆になる必要がある」
日本企業が海外市場でトラブルに見舞われるケースが後を絶たない。2009年の米国におけるトヨタの集団訴訟問題、そして現在進行中のエアバッグメーカータカタのリコール問題など。日本企業はグローバルレベルの危機(クライシス)にどのように対応していったらいいのだろうか。編集部はコミュニケーションの専門家に話を聞いた。
米・コミュニケーションコンサルティング会社フライシュマン・ヒラードのアジアパシフィック地域デジタルエンゲージメントの担当のミッシェル・モメジャ(Michel Mommejat)氏に、デジタル時代のアジア市場の変動、特に日本の企業が直面する課題や危機管理(リスクマネージメント)の問題点について話をきいた。
シンガポールに拠点を置くモメジャ氏は、グローバル・マーケティングとデジタル領域で20年の経験を持つ。東南アジアのマーケットの急成長を例に挙げ、特にこの5年間、市場はデジタル化へのシフトが加速しているという。
その上で、モメジャ氏は、企業やユーザーのその適応性のスピードが、国によって異なり、その土地の文化や習慣などが大いに反映されているのではないかと指摘した。例えば、社交的かつ順応性に富む国民性のインドネシアでは、「デジタル化がとても発達していて、国民はごく自然にデジタル・テクノロジーを生活に取り入れている」という。
そうした中、急成長するアジア市場における日本企業の位置づけはどうか?
「国とその市場の規模の大きさから、ここ数年はほとんど中国が注目の的だったが、最近日本の経済が少し安定してきたことでインバウンド(訪日外国人旅行客)も増えてきた。ラグジュアリー企業(高級商品を扱う企業)は日本に再度投資したいと、戻ってきている。日本の企業と国自体が、安定しているというイメージが大きな理由ではないか」とモメジャ氏は語った。
しかしアジア市場に進出している日本企業は、「アイデアや広告表現などは最新のものを取り入れているが、特にブランドの広告・宣伝戦略は昔のままだ。しかもデジタルの時代に多少乗り遅れている傾向がある。」とモメジャ氏は指摘した。
その理由として挙げられたのが、「日本のブランドを宣伝する海外の日系広告会社が保守的すぎること。」「日本のブランドはもっとローカルの会社と組み、地元の市場に向けたコミュニケーションをするべきではないか。」と彼は述べた。
デジタル化によりソーシャル・メディアが急速に普及する中、インターネット上での炎上を通し、企業とブランド・イメージはダメージを受けやすくなっている。グローバル企業が気をつけなくてはならないのは、危機に直面した時、事態が一気に世界規模にまで拡大しやすいということである。もはや、デジタル適応力の加速化は、日本企業のみならず、世界中のトップブランド企業にとって避けることの出来ない現実だ。
こうした事態を未然に防ぐためにデジタル・テクノロジーは有効だが、消費者のニーズを把握し、危機管理に十分対応するには、それだけでは足りない。Human Analysis (人間による分析)が必要だとモムハット氏は主張した。
こうした背景から、今後はソーシャル・アナリティクス・ツール(インターネット上の様々なデータを解析するツール)を用いて、グローバル市場で何が起きているのか、どのようなニーズの変化が生じているのかなどのモニタリングを行い、その分析結果を元に企業にコンサルティングを提供するサービスが台頭してくると氏は強調し、グローバルレベルで対応可能なオペレーション体制の構築に着手していることを明らかにした。
よりスピーディーにかつ正確に、ソーシャル・メディア上の話題やアイデアの相互関係を収集、測定、分析、解釈し、企業が速やかにしかるべき対応ができる舞台を立ち上げられるオペレーションは、やはり人間の経験と高度な判断力が不可欠だ。
海外M&Aが増えていく中、日本企業はいつ訪れてもおかしくない危機に備え、グローバルに通用する危機管理体制を構築しておく必要がある。
「日本の企業にもっと必要なのは、豪胆さだ。」とモメジャ氏は繰り返した。
日本企業のトップに求められているものは、消費者目線と市場のニーズを把握する力や、危機が起きた時の冷静な判断力と対応力であろう。また、時には堂々と失敗を認めそこから学ぶ力も求められていると感じた。