【今年は危機管理体制整備元年】~2014年の企業不祥事に学べ~
安倍宏行(Japan In-depth編集長/ジャーナリスト)「編集長の眼」
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それにしても今年も謝罪会見が多かった。宣伝会議発行の月刊『広報会議』編集部が選んだ、2014年1月~10月に発生した印象に残った出来事は以下の通りだった。
1位 理化学研究所 小保方晴子氏の不正論文問題
2位 野々村竜太郎元兵庫県議の政務調査費不正使用問題
3位 佐村河内守氏 ゴーストライター使用問題
4位 マクドナルド 使用期限切れの鶏肉使用問題
5位 ベネッセコーポレーション個人情報流出問題
6位 朝日新聞 慰安婦問題、「吉田調書」関連記事取り消し問題
7位 東京都議会議員によるセクハラ野次問題
8位「すき家」従業員過重労働が問題
今回は、4位のマクドナルドと5位のベネッセ、そして8位のすき屋のケースを取り上げる。なぜなら、不祥事、もしくは危機が起きたときの企業の対応として初歩的なミスを犯しているケースだからである。
何がいけなかったのか。答えはシンプルである。「謝罪していない」のである。謝罪会見なのに謝罪していない。これは一番やってはいけないことである。何のための会見なのか。映像は正直である。テレビは、経営者が言葉を発する前から、その佇まい、醸し出す雰囲気を余すことなく視聴者に伝える。
「ああ、この経営者は消費者に対して本当に申し訳ない、と思ってないな。」と視聴者に思われたら、その会見は完全なる失敗である。やらないほうがましだ。
マクドナルドは、自分たちが中国企業に騙された、という態度を示し、ベネッセも多くのユーザーが子供の個人情報漏えいの恐怖に駆られる中、後手後手の対応に終始したことで怒りを買った。
過去、数々の会見の失敗例を見ているはずなのに、何故日本企業の多くが轍を踏むのだろうか?ゼンショーホールディングスもブラック企業との評判が立っていることに対する反省が見られないことが問題となった。
何故、このようなことが起きるのか。この答えもシンプルだ。危機対応のトレーニングを恒常的にやっていないからだ。多くの欧米企業は、危機管理(リスク・マネジメント)の考え方が徹底している。専門部署があるか、外部コンサルタントに委嘱し、絶えず危機の発生に備えている。日本企業は、というと上場企業でも危機管理の必要性を理解していないか、理解していたとしても対応していないところが多い。
その原因の一つには旧態依然とした広報部(室)の在り方による。従来、広報とは企業に不都合な情報が出たときにそれをもみ消す役割を主に果たしてきた。その為には、普段から新聞記者と付き合ってさえいればよかったのだ。
しかし、時代は変わった。今や、SNSで瞬時に情報が世界中に拡散される時代だ。新聞やテレビで報道される前にネット上で企業にとって不都合な情報が駆け巡る。既存メディアだけと付き合っているような広報マインドではとても対応できない。普段からネット上にどんな情報が飛び交っているかチェックしておく体制を整えておく必要がある。それでこそ、危機が起きたときに即対応できるというものだ。同時に、会見を仕切るのは広報なのだから、普段からトップを巻き込みシミュレーションしておく必要があるはずだが、その必要性を感じている広報は少ない。
二つ目には、経営者のマインドである。欧米企業の日本法人には親会社から危機管理について常日頃うるさく言われているので、メディア・トレーニングを怠らないところが多い。社長が交代したらすぐに一対一のVTRインタビューのトレーニングをやる、といった具合だ。日本企業は、というと、そうしたトレーニングを行うところはごく一部の企業に限られる。自分の会社だけには不祥事など起きっこない、と思っているのか、およそ危機管理には無頓着な経営者が多い。
今北米で大問題になっているタカタ製エアバッグ問題も、同社が普段から危機管理について準備しておけば、ここまで問題は深刻にならなかったであろう。トップの迅速で真摯な謝罪がなければ、世論は炎上するばかりであり、沈静化が困難になる。そうなってからでは遅いのだが、創業家の高田CEOの顔はなかなか見えてこなかった。企業の不祥事は、時として巨額の損害賠償を伴い、経営基盤を揺るがしかねない。その認識がトップにない限り、その企業のリスクは限りなく大きいといえる。
ということで、あまりに多くの、そして深刻な企業の不祥事を目の当たりにした、多くの経営者が、遅まきながら、来年はいよいよ本格的に“危機管理体制”を整えるために行動を起こす年となろう。
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